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NHKで好評放送中の大河ドラマ「豊臣兄弟!」(総合 毎週日曜 夜8:00~ほか)。戦国時代、主人公・豊臣秀長(=小一郎/仲野太賀)が、兄の秀吉(池松壮亮)を支え、兄弟で天下統一を成し遂げるまでの軌跡を描く物語は快調に進行中だ。中盤のクライマックスとなる“本能寺の変”が描かれた7月12日放送の第27回「本能寺の変」は、視聴者の間で大きな反響を呼んだ。その興奮冷めやらぬ中、脚本家の八津弘幸氏が、本能寺の変に込めた思いを語ってくれた。

八津弘幸 写真提供:NHK
僕も一視聴者として、鳥肌が立ちました。文字だけの脚本から、あんなに素晴らしい作品に仕上げていただき、「本当にありがとうございます」という感謝の気持ちでいっぱいです。
本能寺の変の前に小一郎と信長が対話することは、当初から想定していました。その直前に起きた織田信澄(緒形敦/信勝の長男)の件(徳川家康を接待する場で、信澄が信長の料理に毒を盛った)で、信勝に対する信長の苦しみが、改めて深くえぐられてしまいました。それを救えるのは小一郎しかいないだろうと。ただ、それには小一郎が信長のそばにいる必要があるので、どうしたらいいか悩みましたが、時代考証の先生に相談しながら劇中のような展開を考えました。
本能寺の変で信長が、斬りかかってくる信澄の刀を受け止める信勝の幻を見たのは、「信勝さまは、上様を恨んではおりませぬ」という小一郎の言葉があったからです。それによって、「信勝は自分を許してくれたのかも」という信長自身にとっての答えを表現できると考えました。そこで信長は救われ、さらに信勝の「われらの一生、ろくなものではござりませんでしたな」という言葉を受ける形で、「是非もなし」という最後の言葉が生きてくる。「是非もなし」は、他の作品では光秀に向かって言うことが多いのですが、僕は信長自身に向けて言わせたいと思っていました。そうすることで、信長の人生に悔いはなかったことが伝わればと。
小一郎&秀吉と信長&信勝、二つの兄弟を表裏の存在として描く考えは、初期の構想段階からありました。まず大前提として、豊臣兄弟を魅力的に描きたいというのが、僕の思いです。そのために、この2人と相反する兄弟の姿を描くことで、それが豊臣兄弟にどのような影響を与え、どう変わっていくのかをひとつのテーマにしようと。その大きな要素のひとつが、信長と信勝です。
僕は弟とは仲がいいのですが、身近な人たちに聞いてみると、必ずしも皆さん、そうではないんですよね。関係が難しかったり、疎遠だったりと、兄弟はそれぞれで。でも、皆さんできれば仲良くしたいはずで、それは戦国時代も変わらないだろうと。家督を争ったり、仲違いしたりする兄弟がいる反面、仲の良い兄弟もいる。その象徴的な存在が小一郎と秀吉で、対極にあるのが信長と信勝です。
当初は、「僕なりの信長を描きたい」という欲もあり、「涙もろい信長」など、いろいろと知恵を絞りました。でも結局、どれもしっくりこなかったんです。そうこうしているうちに小栗さんの出演が決まり、「小栗さんに演じていただけるなら、信長をストレートに描こう」と腹が決まりました。だから、「今回の信長は人間味がある」と言っていただけることは大変ありがたいのですが、僕自身は特に意識して描いたわけではありません。信長の人物像を掘り下げていったら、自然にそうなっただけで。皆さんの感想を目にして、自分でも初めて「そうなのか」と気づいたくらいです。
本能寺の変については、早い時期に小栗さんから「疲れ果てた信長を表現したい」と相談を受けていました。さらに僕自身、本能寺の変の信長は、明智光秀(要潤)だけでなく自分の過去とも戦う姿をイメージしていました。本能寺の変に至る脚本は、そういう僕と小栗さんの思いを込めて書き上げたものです。小栗さんが「お互いのやりたいことを思い切りやりましょう。僕も一緒に背負います」と言ってくれたおかげで、僕も覚悟を決めて全力で取り組むことができました。

(C)NHK
その葛藤は僕も常に抱えています。実は、最初にこの作品のお話をいただいたのが、ちょうどロシアのウクライナ侵攻が始まった頃だったんです。だから、引き受けるべきか、引き受けるなら戦国時代をどう描けばいいのか、非常に悩みました。でも、そういうことを受け入れざるを得なかった時代を生き抜いた豊臣兄弟を描くことで、最終回までたどり着いたとき、視聴者の皆さんが生きる現在と地続きになり、ひとつの希望のように見えたら…と。今はそういう思いを持って執筆をしています。
本能寺の変のキーパーソンとなった信澄については、打ち合わせの場で時代考証の先生から「こういう人物がいます」とご提案いただいたものです。それは新しい切り口ではないかと、制作統括を始めとするスタッフの皆さんと合意の上でドラマを作り上げていきました。ただ、その描き方は非常に難しく、試行錯誤の末にたどり着いたのが、幼い頃に死の床にある母親から、ああやって呪いのような言葉を聞かされ続けたら、成長の過程でさまざまな人々と触れ合ったとしても、それを自分の中から消し去ることは難しいのでは…ということでした。それは、現代でもあり得ない話ではないと思います。つまり、ひとつの不幸な出来事から不幸が連鎖した結果、ああいう人物が生まれてしまった、という形になればと。言ってみれば、信澄も争いの中で生まれた一種の被害者のつもりで描きました。
本能寺の変を経て、小一郎も秀吉も少しずつシフトチェンジしていきますが、根っこの部分は変わらずにいてほしいと思っています。そういう意味で、この作品の持ち味でもある明るく楽しい雰囲気は、この先も大事にしていくつもりです。僕自身も、脚本家にとっては一生に一度の機会ともいえる大河ドラマに悔いを残さないよう、全力で取り組んでいるところです。視聴者の皆さんのご意見に気づかされたり、励まされたりすることも多く、これからもご期待に沿えるよう頑張っていきますので、引き続き応援よろしくお願いします。

(C)NHK
(取材・文/井上健一)
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