エンターテインメント・ウェブマガジン
こうの史代の同名漫画を原作に、昭和初期の広島・呉で暮らす平凡な主人公・すずのつつましい暮らしが、戦時下の空気に呑み込まれていく様を描いた『この世界の片隅に』(16)。世界最高峰のアニメーション映画祭、第41回アヌシー国際アニメーション映画祭で長編部門審査員賞を受賞するなど、国内外で絶賛されたこの名作が、終戦80年に合わせて全国でリバイバル上映中だ。今回のリバイバル上映に込めた思いを、舞台あいさつを終えた直後の主人公・すずの声を演じたのんと片渕須直監督に聞いた。

のん(左)と片渕須直監督(C)エンタメOVO
片渕 2016年の劇場公開から早くも9年が経ちました。その後も各地で上映を継続してきましたが、来てくれた高校生に聞いてみると、「DVDや配信で見たことはあるけど、映画館で見るのは初めて」というんです。今回も、夏休みということもあり、高校生や親子連れの方がたくさん足を運んでくださっています。やはり9年も経つと、お客さんも新しい世代が加わっていくんだなと。
のん リバイバル上映ということで、今まで届いていなかった方たちにも届けられるいい機会だと思います。これから先も末長くご覧いただきたい作品なので、こうして皆さんに足を運んでいただけることが幸せです。
片渕 しかも、終戦時ようやく20歳だったすずさんが100歳を迎える年だと考えると、当時大人だった方から直接お話を伺う機会は限られてきています。そんなふうに戦時中の様子を伝えるものが減る中で、可能な限りそれを映像に残そうと作ったのがこの作品です。その結果、2016年の公開時、ご覧になった80代、90代の方から「ああいう空気だった」、「私たちの人生はあの中にあった」という言葉をいただくことができました。そういうことを踏まえると、この映画を定期的に上映していくことが大事なのかなと。その点で今回は、久しぶりに大規模な公開の機会いただき、ありがたく思っています。
片渕 その思い自体は、映画の中に込められているので、あえて説明するまでもないと思っていたんです。でも、「加害責任」というものを、ものすごく限定的に捉える方がいて。
片渕 例えば、「植民地から連行した労働者に暴力を振るったことは加害である」とは認めても、「植民地から運んできた食料を食べているなら、それもある種の加害では」と話を広げようとすると、「それは食料自給率の問題で、関係ない」と言われてしまうんです。「食料自給率が100%でない理由は、植民地があったから」というところにまでさかのぼり、日本で余剰になった農業人口が工業化のために使われた、みたいにもっと根本に立ち返ってその意味を捉え直してほしいのです。世界は多面的であり、この物語の題名『この世界の片隅に』の「片隅」の外にはまさに広大な世界が広がり、様々な理由が存在している。どんどんと視野を広げていくべきなのに…と思います。
のん 「加害者」という言葉はなかったと思いますが、植民地から送られてきた食料で自分ができていることに対するやりきれない気持ちが、終戦によって決壊し、一気にあふれてくる、というお話は伺っていました。それまで、自分でも言っていたように「ボーっとしとる」ように見えていたすずさんですが、実はそうではなく、心の内にはふつふつとした思いがあった。それを、あのせりふから遡って理解できるようにしたいんだと。
片渕 すずさんが自分を全肯定できず、自分の中に否定的なところがあるのがすごく嫌で、それに対して怒る。だから、怒っている相手は自分なんだと。それを表現してほしいとのんちゃんにお願いしました。
片渕 そうです。その前にすずさんは、原爆投下で家族が行方不明になったとき、「何でも使こうて暮らし続けるのが、うちらの戦いですけぇ」と急に勇ましいことを言い出しているんです。それも、そういうことに無自覚だったから出てきた言葉ではないかと。
片渕 このビジュアルは、「昭和20年8月15日の正午過ぎ」の様子です。たくさん植えられていたはずのカボチャが、焼夷弾で焼けてなくなった畑を背景にしました。この日付は「戦争が終わった日」として記憶されているんですが、でも、「われわれの80年が始まった第一日目」でもあるのじゃないか。その最初の日はこんなに丸焼けで、すずさん自身もボロボロなところから始まった。そう述べてみたかったんです。
のん この作品には、当時の様子を忠実に描く一方で、ワニが出てきたり、そのシーンのように空中から右手が伸びてきたり、ちょっとファンタジックなシーンもあるんです。でも、そういう要素があることで、現実が浮き彫りになってくるんですよね。
片渕 そこで浮き彫りになる現実というのが、すべてなくなってしまった畑なんです。
のん そういう片渕監督の深い思いを今お聞きして、すごく感動しました。
ドラマ2026年9月28日
ついにNHKで放送開始となった2026年後期連続テレビ小説「ブラッサム」。明治、大正、昭和を駆け抜け、自由を求め続けた作家・宇野千代をモデルにした主人公・葉野珠(石橋静河)が、苦難の中でも「幸せのかけら」を見つけ、常に前に進むことで人々の … 続きを読む
ドラマ2026年9月26日
9月28日から2026年後期連続テレビ小説「ブラッサム」が、NHKで放送開始となる。主人公は、明治、大正、昭和を駆け抜け、自由を求め続けた作家・宇野千代をモデルにした葉野珠。彼女が苦難の中でも「幸せのかけら」を見つけ、常に前に進むことで人 … 続きを読む
映画2026年9月25日
『ハート・オブ・ビースト』(9月25日公開) かつて陸軍特殊部隊で生死を共にした退役軍人のジェームズ(ブラッド・ピット)と、元軍用偵察犬で義足のオーディン。戦場を離れた現在も、彼らは相棒として深い絆で結ばれていた。 ところがアラスカ上空 … 続きを読む
映画2026年9月24日
十三代目市川團十郎白猿の襲名と八代目新之助の初舞台を正面から捉えた、三池崇史監督のドキュメンタリー映画『襲名』が、9月25日から全国公開される。映画の公開を前に、團十郎、新之助親子に話を聞いた。 -まず、映画を見て感じたことから伺います。 … 続きを読む
映画2026年9月18日
横溝正史原作の名作ミステリーが、令和の時代によみがえる!これまで繰り返し映像化されてきた『八つ墓村』が装いも新たに映画化され、9月18日から全国公開となる。 岡山県の山奥にひっそりとたたずむ八つ墓村で起きる連続殺人の謎に、名探偵・金田一 … 続きを読む