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NHKで好評放送中の大河ドラマ「青天を衝け」。12月5日に放送された第三十八回「栄一の嫡男」の冒頭では、徳川家康の江戸入城三百年を祝う“東京開市三百年祭”が開催された。
さながら旧幕臣の同窓会といった雰囲気で、主人公・渋沢栄一(吉沢亮)は、徳川昭武(板垣李光人)や川村恵十郎(波岡一喜)、高松凌雲(細田善彦)といった懐かしい面々と旧交を温めた。
これに続いて描かれた養育院のバザーの場面で、栄一は亡き恩人・平岡円四郎(堤真一)の妻・やす(木村佳乃)とも再会する。
いずれの場にも居合わせることができず、参加した人々が話題にしたのが、「朝敵」の汚名を着せられたまま、静岡で静かに暮らすかつての主君・徳川慶喜(草なぎ剛)のことだった。
ここまでドラマを見てきた視聴者も、彼らと同じような思いを抱いたに違いない。そういった感情が芽生えるのも、ここまでの三十七回の積み重ねがあればこそ。これこそ、1年という時間をかけてじっくりと物語を紡いでいく大河ドラマならではの魅力といえる。
振り返ってみれば、本作はこれまで、水戸藩主・徳川斉昭(竹中直人)の七男に生まれ、一橋家を相続、そして運命の巡り合わせで将軍に就任、幕府崩壊後の苦難の生活と、長い時間をかけて慶喜の姿を丁寧に描いてきた。
特に幕府崩壊までの前半は、もう一人の主人公ともいえる存在感を発揮し、栄一と共にドラマをけん引した。明治時代に入り、活躍の場が減った後半も、栄一と慶喜の主従の絆は変わらず、ドラマを支える柱となった。そう考えると、慶喜は栄一と並ぶ本作の立役者といってもいい。
そんな慶喜の若い頃から晩年までを、人間味豊かに表現する草なぎの演技も、唯一無二の魅力にあふれている。普段は穏やかで捉えどころのないたたずまいを見せる一方、平岡円四郎の遺体と対面した際には人目をはばからず号泣する(第十六回)など、多彩な表情を披露し、見事なはまり役となった。