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どんな役であっても、違和感を抱かせない演技で、あたかも実在するかのような人物を演じ切り、高評価を得ている俳優の高橋一生。子役から出発し、芸歴自体は長いが、ドラマ「カルテット」(17・TBS系)や、同年のNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」への出演をきっかけにその魅力が改めて認知され、大ブレーク。“高橋一生ブーム”とも呼ぶべき現象が巻き起こった。今回は筆者が取材などを通して感じた高橋の魅力について語ってみたい。
今年2月、人気絶頂の高橋と、女優の森川葵との恋愛報道が出た際には、ショックを受ける女性ファンが続出した。熱愛が報じられて以来、初の公の場への登場となった2月末の「NHKスペシャル シリーズ人類誕生」のスタジオ取材会では、高橋の去り際に関係者が徹底ガード。「高橋一生、交際質問に無言」といった見出しが、各社のネットニュースに踊った。
ところが、会見中の高橋はいたって冷静だった。登場するなり多数のフラッシュを浴びた彼の顔には驚きや不安よりも、「こんなにたくさん報道陣が集まったのか」「報道直後だから当然か」「やはりすごいなぁ…」といった、自分を客観視して状況を楽しむ(全身で引き受ける)という余裕さえあるように見えた。もちろん、高橋が交際について語ることはなかったが、終始表情を崩すことなくその場を乗り切った姿には「さすが」という思いすら抱かされた。
さて、そもそも高橋の魅力とは、自分を客観視し、俯瞰(ふかん)する冷静な視点にあるのではないだろうか。俳優である以上、目標や野心といったものは少なからず持っているのだろうが、ガツガツとした高橋の姿を思い浮かべることは難しい。周囲をよく見渡し、瞬時にその場の空気を読み取り、相手の求める振る舞いをしながらも静かにたたずむ…。そんな姿が世の女性を引きつけてやまない彼の魅力なのかもしれない。
昨年8月に出演したNHKの情報番組「あさイチ」では、役作りの話題からプライベートにまで言及。高橋は自身のことを「恐らく僕は、承認欲求的なものが限りなく少ないんだと思います」と語っていた。
そんな高橋が、自身を俯瞰すると同時に、周囲もよく見渡していることを象徴するような出来事があった。それは、自身がオフィシャルサポーターを務めることとなった「ルーヴル美術館展 肖像芸術―人は人をどう表現してきたか」のPRイベントでのこと。16世紀ベネチア派の巨匠、ヴェロネーゼの渾身(こんしん)の一作「美しきナーニ」が27年ぶりに来日することにちなみ、「普段の生活の中で高橋さんが美しいと感じるものは何?」という質問が出た。
これに対して高橋は「人の顔」と答えると、報道陣を見渡しながら「こういった場所に出て、お一人お一人の顔を見させていただくと、やっぱり顔って一番(その人を)物語るというか、その人の生きてきた道を表すものなんだなと感じるんです」と答えたのだ。
造形の美ではなく、人間の内面に目を向ける姿が印象的であったのと同時に、こうした場においても自分を取材する報道陣を観察する余裕、冷静さがあるのかと驚かされた。