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音楽を聴きながら驚異の運転テクニックを発揮する犯罪組織の若きドライバーの活躍を描いた話題作『ベイビー・ドライバー』が公開された。主人公のベイビーを演じた期待の若手俳優アンセル・エルゴートが来日し、エドガー・ライト監督の印象や、音楽へのこだわりなどを語った。
まずエドガー・ライト監督と一緒に仕事ができたことがとても幸運でした。実は、オーディションの段階では何を求められているのかよく分かりませんでした。でも、役に決まって、撮影前にエドガーからいろいろなことを教わる中で、この役は自分に合っているんだ、と実感することができました。ですから、撮影が始まってからも、ただエドガーを信頼して演じればいいという気持ちでした。この映画のベイビーは、自分が俳優としてずっと夢に見てきたような特別な役柄でした。今までやってきたことはこの役を演じるための準備だったと、言っても過言ではないような気がしています。
エドガーと初めて会った時は、音楽の話で盛り上がりました。それでミーティングの最後に「そんなに音楽が好きならぜひ君に読んでほしい脚本がある」と言われました。それは、映画のサントラで使う予定の楽曲をiPodに入れ込んだ脚本でした。つまり音楽を聴きながら脚本を読むことができたのです。これはすごいと思いました。そこからベイビーというキャラクターのトーンもしっかりと伝わってきたし、これは特別な作品になると思いました。
『ブリット』(68)、『トランザム7000』(77)、『俺たちに明日はない』(67)、『ドライヴ』(11)、『フレンチ・コネクション』(71)…。オフィスに大きなモニターがあって、昔の作品のクリップを見られるような態勢になっていました。今はYouTubeでどんなものでも見られるから、エドガーが、さまざまな作品のイケてるシーンを、「これなんだよ!」と言いながら見せてくれました。エドガーは、他の映画をたくさん知っていて、その作品のいいところをうまく取り入れることができる。そこが彼の素晴らしいところです。
どのシーンでも、動きや振り付けが決まっていて、それを演技に加えなければなりませんでした。それは一つの挑戦でしたが、同時にとてもワクワクしました。だからこそ、とてもユニークな作品に仕上がったのだと思います。僕は、始めはダンサーとして活動していたので、自分の強みはアクションなのかなと思っています。ですから、この映画が、せりふだけではなく、アクションが大きな部分を占めているところに興味を持ちましたし、そこが演じていて楽しい部分でもありました。演じた後も、どんなふうに仕上がっているのだろうと、とても楽しみでした。
実は「イージー」は、もともと大好きで、僕にとっては特別な曲でした。最終オーディションの時に、曲に合わせてアドリブの演技を披露することになり、エドガーから「自分の好きな曲で、ベイビーも好きそうな曲でやってみて」と言われました。それで「イージー」に合わせてアドリブで演じてみたらその場の空気が変わったんです。エドガーも「僕も大好きな曲だよ!」と。それからしばらくしてベイビー役に決まったのですが、改稿された脚本の中に「イージー」を使うシーンが入っていました。
2人が演じたのは怖いキャラクターですが、同時にユーモアも感じさせます。実際の彼らもユーモアのセンスが素晴らしいです。現場での仕事はもちろん、どんな状況でも楽しんでやろうという気概があります。この仕事で長く成功し続けているのは、決して偶然ではなく、彼らが人を楽しませながら自分も楽しむという姿勢を持ち続けているから。そういう気持ちがなければ駄目だと思います。今回は、物事を深刻に受け止め過ぎないことも重要だと学びました。彼らには俳優としての遊び心があります。それがスクリーンを通して観客にも伝わるのではないでしょうか。
今回、現場で優秀なスタントドライバーたちに囲まれて運転しながら気付いたことは、公道では運転が下手な人がたくさんいるということでした(笑)。僕はスピード派ではないけれど、今回は車を運転したり止めたりする際のさまざまなテクニックを学ぶことができたので、今でも時々駐車場などでこっそりやってみることがあります。運転中は、渋滞などでストレスを感じることも多いので、ベイビーとは違って、ビル・ウィザースの「ラブリー・デー」のような気持ちを落ち着かせてくれる曲を聴いています。
この映画の、ちょっとドリーム感のある、これは現実なのかな、という感じのエンディングが大好きです。ベイビーが犯した罪の代償を払うという公平な結末も気に入っています。僕も続編への限りない期待を抱かせるエンディングだと思います。もしエドガーがまたやりたいと言ったら、ぜひ参加したいですね。そうしたらまたすごいキャストと一緒に仕事ができるかもしれないですし(笑)。
(取材・文・写真/田中雄二)
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