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1月8日から放送が始まったNHK大河ドラマ第56作「おんな城主 直虎」。戦国時代に家を守るため、女性でありながら当主となって乱世を生き抜いた井伊直虎(柴咲コウ)の激動の生涯を描く物語だ。
既に放送された第1回、第2回では、少女時代の直虎=おとわ(新井美羽)と幼なじみの亀之丞(藤本哉汰)、鶴丸(小林颯)の関係性、井伊家を取り巻く厳しい状況などが軽快な演出とスケール感あふれる映像の中に描かれていた。
近年の大河ドラマでは、2011年の第50作「江 ~姫たちの戦国~」から本作まで、7作にわたって男性主人公と女性主人公の作品が交互に制作されている。半世紀を越える大河ドラマの歴史の中で、これほど頻繁に女性主人公が繰り返されるのは初めてのこと。これは世相が反映された結果だろう。
その一方、無名の人物にスポットを当てる作品が多かったこともあり、男性中心の武家社会を舞台にした物語で、女性を主人公にする難しさも感じられた。作品によっては、歴史の転換点となるドラマチックな場面に主人公が立ち会えず、存在感が希薄になったり、無理に絡ませようとして展開が不自然になったりする様子も見られた。
女性の視点から描きたいが、封建的な武家社会が舞台では物語に無理が生じる。近年の大河ドラマに見られた女性主人公ならではのジレンマといったところだろうか。
その点、直虎は全国的な知名度こそ低いものの、男性と同等の城主となって一族を率いるという近年なかったタイプの女性主人公。必然的に直虎が物語の中心となるはずで、そういったジレンマは解消されるに違いない。
その片鱗は、これまで放送された部分からもうかがうことができる。主人公のおとわがまだ幼いため、井伊家に降りかかる数々の問題に対処するのは、当主である父・井伊直盛(杉本哲太)を中心とした大人たち。それでも、当主の一人娘という立場にあるおとわには、必然的に影響が及んでくる。
いいなずけとなった亀之丞の父・井伊直満(宇梶剛士)の死や、新たに鶴丸との婚約を命じられるといった不測の事態。それぞれの局面でおとわなりに考えて行動し、物語を動かしていく様子がきちんと描かれていた。特に、第2回のラストで直盛を驚かせた予想外の行動には、筆者も驚かされた。成長後の直虎にそのキャラクターが継承されていくことを考えると、今後どんな型破りな行動を見せてくれるのか楽しみになってくる。
「答えは一つじゃない」
これは、本作の脚本家・森下佳子がインタビューで語った言葉だが、劇中でおとわは南渓和尚(小林薫)からこの言葉を聞かされ、第2回のラストの行動につながる。すなわち、本作に通底するメッセージの一つでもある。第4回まで少女時代を描くというこれまでにない幕開けも、森下なりに考え抜いた答えだろう。幸い、おとわを演じる新井の演技も好評で、滑り出しは快調。第5回からは柴咲に主役がバトンタッチし、物語はさらに大きなうねりを見せるはず。次々と訪れる困難をどのように切り抜けて行くのか、直虎と一緒に1年間、一つではない答えを探し続けていきたい。(井上健一)