【映画コラム】 広瀬すずが素晴らしい!『海街diary』

2015年6月13日 / 19:21
 (C) 2015 吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ

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 鎌倉を舞台に、三姉妹と異母妹が家族としての絆を深めていく1年間を描いた是枝裕和監督の『海街diary』が13日から公開された。原作は吉田秋生の同名漫画。綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すずが四姉妹を演じている。

 祖母が残した、神奈川県鎌倉の一軒家で暮らす幸(綾瀬)、佳乃(長澤)、千佳(夏帆)。彼女たちのもとに15年前に女性と共に家を出た父の訃報が届く。父は女性と死別し、三度目の結婚をしていた。父の葬儀で2番目の妻との間の娘すず(広瀬)と対面した幸は“妹”に鎌倉で一緒に暮らすことを提案する。

 本作の見どころは、ちゃぶ台での食事、縁側に座る姿など、四姉妹が暮らす古い日本家屋での“和式”の生活がローアングルで描かれるところ。それ故、紛れもなく現代を描いた話でありながら、昔の日本映画を見ているような不思議な気分にさせられる。

 そして、鎌倉、家族、ローアングルとくれば名匠・小津安二郎の諸作が思い浮かぶ。実際、父の葬儀の場面は小津の『小早川家の秋』(61)を思わせるところがあるし、背筋を伸ばし、りんとしたたたずまいを見せる綾瀬に、小津映画でたびたびヒロインを演じた往年の名女優、原節子のイメージを重ねた人も少なくないという。是枝監督自身も、本作は小津映画を強く意識して作ったことを公言している。

 とは言え、安易に回想シーンを入れず、表情やしぐさ、せりふだけで四姉妹それぞれの父への思いを知らせる“我慢の演出”や、淡々とした優しさの奥に、少しばかり意地悪で残酷な視点を潜ませるあたりに是枝監督のこだわりが感じられる。こうした新旧の折衷が、本作をユニークな味わいを持った家族劇たらしめている理由だろう。

 個性の異なる姉妹を演じた四人はそれぞれ好演を見せるが、中でも、若さ故の憂いと喜び、屈折と素直さという両極を見事に表現した広瀬すずが素晴らしい。大器の片りんをうかがわせる、今後が楽しみな女優が誕生した。

 また本作は、海街としての四季折々の鎌倉、あるいは父の最期の地として登場する岩手県花巻市の鉛温泉、わたらせ渓谷鉄道などでのロケが大いに効果を発揮している。風景を見るだけでも一見の価値あり。(田中雄二)


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