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井上真央、三浦春馬、池松壮亮、成海璃子、染谷将太、志田未来…。彼らは、現在活躍する若手俳優たちだが、彼らにはある共通点がある。それは、全員が子役出身ということだ。
「子役は大成しない」と言われたのも今は昔。現在の日本映画界、ドラマ界は子役出身俳優が支えていると言っても過言ではない。もちろん、これまでにも子役から名を成した俳優はいたが、今ほどその存在が際立つ時代はなかったように思う。
中でも活躍著しいのが、CMの金太郎役で人気の濱田岳。現在、放送中のNHKドラマ「トットてれび」のほか、映画『ヒメアノ~ル』、『世界から猫が消えたなら』が公開中だ。
独特の間合いが醸し出すとぼけた味わいを武器に、サスペンスからコメディー、時代劇まで幅広く活躍。その芸風は、他者にはまねができないものだけに、独壇場といってもいい。西田敏行の当たり役に挑戦した昨年の「釣りバカ日誌 新入社員 浜崎伝助」での活躍も記憶に新しいところ。
小学生の時に「ひとりぼっちの君に」(98)でデビューした濱田は、「3年B組金八先生(第7シリーズ)」(04~05)などで存在感を発揮したが、当時は少年らしい伸びやかさややんちゃぶりが全面に出ており、現在のイメージからはやや遠い印象だ。
転機となったのは、伊坂幸太郎のベストセラー小説を映画化した『アヒルと鴨のコインロッカー』(06)。この作品で、隣人の奇妙な計画に巻き込まれる大学生を演じた濱田は、自身が「そのまんま」と語るナチュラルな魅力を開花させる。これが見事に当たり、以後“ちょっとイケてない青年”は濱田のハマり役となった。最新作『ヒメアノ~ル』は、そんな濱田の個性が笑いとサスペンスの両面で効果を発揮した作品だ。
濱田がその個性を生かして唯一無二の地位を築いたとすれば、どんな役にも成り切る演技力の高さでキャリアを積み重ねてきたのが神木隆之介。
ピュアな少年らしさを持ち味に、10代前半で『妖怪大戦争』(05)ほかに主演した神木は、「SPEC(スペック) 警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿」(10)などで悪役にも挑戦。成長と共に演技の幅を広げてきた。『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』(6月25日公開)では高校生役ながら、『桐島、部活やめるってよ』(12)で演じたオタク気質の映画部員とは異なる、お調子者的な役作りで、その演技力を見せつけている。
1988年生まれの濱田と93年生まれの神木を始め、冒頭で挙げた俳優たちも軒並み80年代後半から90年代前半生まれの20代。彼らはやがて、日本映画界、ドラマ界を背負って立つ存在となるだろう。さらにその後には、森永悠希、美山加恋、杉咲花らが控え、名子役と呼ばれた加藤清史郎、芦田愛菜、鈴木福ら2000年代生まれも、いずれは大人の俳優に脱皮する時期を迎える。
30年前と比べて子役の演技力は遥かに向上している。児童劇団などで演技を学んだ子役たちは、成人した時点ですでに10年前後のキャリアを持つことになり、経験も十分。子役出身の俳優たちの存在感は、今後ますます高まっていくに違いない。
(ライター:井上健一):映画を中心に、雑誌やムック、WEBなどでインタビュー、解説記事などを執筆。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)