<ライブレポート>玉置浩二、Pastoraleツアー最終公演レポート 愛と平和を祈る二日間

2024年7月1日 / 12:05

 今年2月に沖縄で幕を開け、全国11都市を巡った玉置浩二のシンフォニック・コンサート【玉置浩二 LEGENDARY SYMPHONIC CONCERT 2024 “Pastorale”】。その千秋楽が2024年6月1日、2日に大阪の万博記念公園で行われた。

 シリーズ10回目となる本ツアーには、ドイツ語で田園を意味する「Pastorale」の名が冠された。ベートーヴェンが交響曲第6番に記したタイトルと自身の代表曲、ふたつの「田園」の邂逅が玉置とオーケストラの運命的な出会いを象徴し、これまでの軌跡をも表している。

 ツアー最終公演の場所として選ばれた万博記念公園は、1970年に開催された日本万国博覧会の跡地にあり、当時の建造物や展示物の一部を見ることができる。なかでも岡本太郎によりデザインされ万博のシンボルとなった太陽の塔は「万物のエネルギーの象徴」として圧倒的な存在感を放っており、その眼下にあるお祭り広場がコンサート会場となった。設置できる座席の数を上回るチケットの申し込みがあったため、発売後にスタンド席と芝生エリア席が追加され、観客動員数はシリーズ史上最大の1万人を超えることとなった。

 指揮はバルカン室内管弦楽団の音楽監督でもある栁澤寿男、演奏は同楽団と大阪交響楽団の合同編成。ツアータイトルにちなんだ交響曲第6番『田園』より、第5楽章の冒頭部分の演奏でコンサートが始まる。嵐が去った後の自然や神への感謝の気持ちを表現したこの楽章は、苦悩を経て音楽に生きる希望を見出したベートーヴェンの穏やかに満ち溢れる喜びが感じられる。そこからアタッカで奏でられたのは、玉置が作曲した管弦楽作品「歓喜の歌」。紛争の爪跡に苦しみながらも音楽のちからで成就する平和を希(こいねが)い活動を続けるバルカン室内管弦楽団への敬意と平和への祈りの想いが込められており、栁澤の同名の著作から名付けられている。これまでも玉置のシンフォニック・コンサートでは欠かさず演奏されてきた楽曲ではあるが、バルカン室内管弦楽団と栁澤の指揮は2016年以来の共演となり、この間に起こった世界情勢を振り返ればやはり特別な想いを感じざるを得ない。

 オーケストラによる演奏の後、満を持して玉置がステージに現れた。ひときわ大きな拍手で迎えられ、静かなパルランドではじまったのは今回のシリーズで新たにシンフォニックアレンジを施した「ボードビリアン ~哀しみの道化師~」。その後も「ホームレス」「Beautiful World」と同じく新編曲された静かな調子の作品が続くが、玉置は静寂さえも自らの音楽とし伴奏に従える。「Beautiful World」では、野外ゆえの空や緑、目に入る景色と肌に感じる空気が「美しき世界」の歌詞を五感に響かせ、雄大なメロディーとともに鮮やかに空間を彩った。

 今回のツアーでは玉置の発案により、各地のオーケストラにも新たな角度からスポットが当てられ、それぞれが思い入れのあるレパートリーで後半の幕開けを飾ることとなった。万博特別公演の第2部では、まずバルカン室内管弦楽団のみが登場し、ヴァルトン・ベチリ作曲の『スピリット・オブ・トラディション』の終曲「ダンス」を演奏。タイトル通りバルカン地方の伝統的な拍子と旋律が随所に散りばめられており、旧ユーゴスラビア出身の演奏家で構成され民族共栄を理念に掲げ活動しているバルカン室内管弦楽団の団員一人ひとりの、それでも故郷に在り続けるという矜持と信念に溢れる熱量の高いパフォーマンスとなった。その後大阪交響楽団が加わると、同楽団の名誉指揮者であり、昨年逝去した外山雄三が作曲した「管弦楽のためのラプソディ」が演奏された。祭囃子を想起するイントロダクションの後、聞き馴染みのある日本民謡のフレーズが代わる代わる現れる。謡い継がれてきた節々の血脈が持つエネルギーが、生命の中心、祭りの中心として建造された太陽の塔によってさらに増幅され、アイデンティティと生命力に満ち溢れたふたつのオーケストラによる「祭り」が音楽で力強く描かれた。

 ふたたび玉置が聴衆の前に姿を現すと、「祈りの鐘」の音が3度鳴り響く。「SACRED LOVE」の歌唱ともに、東欧、中東、能登、そして時空を超えて、数多の災厄で傷ついた人びとへ捧げる祈りとなった。

 曲を重ねるごとに、歌に込められた想いが抑えきれないとばかりにエネルギーとなり拡散していく。本編の最後は「夏の終りのハーモニー」。曲の終盤で、この広大な野外会場であっても、玉置は何ら変わらぬ所作でマイクを置いた。1万人がどよめき、その目と耳全てが玉置に集まる。マイクを通さずにワンフレーズを最後のロングトーンまで歌い切ると、その圧倒的な歌声とパフォーマンスに称賛の拍手が鳴り続けた。
 
 総立ちとなった観客からのアンコールに応えて歌ったのは「田園」と「メロディー」。誰もが期待をした選曲で会場の盛り上がりが最高潮に達した時、玉置が空を指差すと、それを合図に盛大な花火が夜空に打ち上げられた。6月2日の大千秋楽ではさらに、ダブルアンコールとしてもう一度「田園」が演奏された。玉置がジェスチャーで煽ると、1万人が声を合わせた大合唱となる。心を通わせ歌うことの歓びを噛みしめているかのような笑顔で、玉置はステージから会場を見渡していた。

 生きていくんだ、それでいいんだ。玉置の歌が放つ愛はこれからも多くの人々の心を温かく包み込み、寄り添い、勇気づけていくのだろう。歌に込められた想いは伝播し、祈りへと変貌する。愛と平和、人類が永らく掲げてきた理想のかたちが顕現したと感じられる特別な2日間だった。

Photo by GREAT DANE

◎公演情報
【玉置浩二 LEGENDARY SYMPHONIC CONCERT 2024 “Pastorale”】
2024年2月28日(水) 那覇文化芸術劇場なはーと 大劇場
2024年2月29日(木) 那覇文化芸術劇場なはーと 大劇場
2024年3月13日(水) 東京芸術劇場 コンサートホール
2024年3月19日(火) フェスティバルホール
2024年3月20日(水・祝)  フェスティバルホール
2024年3月28日(木) 東京国際フォーラム ホールA
2024年4月2日(火) 愛知県芸術劇場 大ホール
2024年4月3日(水) 愛知県芸術劇場 大ホール
2024年4月8日(月) 広島文化学園HBGホール
2024年4月14日(日) 熊本城ホール メインホール
2024年4月18日(木) 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
2024年4月19日(金) 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
2024年4月22日(月) 長崎ブリックホール 大ホール
2024年4月29日(月・祝) 仙台サンプラザホール
2024年5月8日(水) 福岡サンパレスホテル&ホール コンサートホール
2024年5月9日(木) 福岡サンパレスホテル&ホール コンサートホール
2024年5月17日(金) 札幌文化芸術劇場hitaru
2024年5月18日(土) 札幌文化芸術劇場hitaru
2024年5月23日(木) 東京ガーデンシアター
2024年6月1日(土) 万博記念公園 お祭り広場(特別公演)
2024年6月2日(日) 万博記念公園 お祭り広場(特別公演)

出演:玉置浩二
指揮・管弦楽
【沖縄】大友直人指揮 琉球交響楽団
【東京 3/13】大友直人指揮 東京フィルハーモニー交響楽団
【大阪 3/19, 20】湯浅卓雄指揮 京都市交響楽団
【東京 3/28】円光寺雅彦指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団
【愛知】田中祐子指揮 セントラル愛知交響楽団
【広島】円光寺雅彦指揮 広島交響楽団
【熊本・長崎】大友直人指揮 九州交響楽団
【兵庫】湯浅卓雄指揮 京都フィル・ビルボードクラシックスオーケストラ
【宮城】円光寺雅彦指揮 仙台フィルハーモニー管弦楽団
【福岡】田中祐子指揮 九州交響楽団
【北海道】栁澤寿男指揮 ビルボードクラシックスオーケストラ With SORA
【東京 5/23】湯浅卓雄指揮 東京フィルハーモニー交響楽団
【大阪 6/1, 2】栁澤寿男指揮 バルカン室内管弦楽団×大阪交響楽団

<セットリスト>
1. 交響曲第6番『田園』第5楽章より(L.v. ベートーヴェン作曲)
2. 歓喜の歌(玉置浩二作曲)
3. ボードビリアン ~哀しみの道化師~
4. ホームレス
5. Beautiful World
6. あこがれ
7. MR. LONELY~All I Do~サーチライト(メドレー)
8. Friend
9. 『スピリット・オブ・トラディション』より「ダンス」(V. ベチリ作曲)
10. 「管弦楽のためのラプソディ」(外山雄三作曲)
11. SACRED LOVE
12. 行かないで
13. ワインレッドの心~じれったい~悲しみにさよなら(メドレー)
14. JUNK LAND
15. 夏の終りのハーモニー
EC1. 田園
EC2. メロディー
DEC.  田園 ※6/2公演のみ

公演公式サイト
http://billboard-cc.com/archive/tamaki-pastorale


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