北村匠海 連続テレビ小説「あんぱん」は「とても大きな財産になりました」【インタビュー】

2025年9月12日 / 08:15

(C)NHK

-小学生の頃、絵画教室に通われていたそうですが、演じる上で役立った部分はありますか。

 僕は子どもの頃から、絵画教室に通ったり、自宅では粘土で架空のモンスターを作ったりしていました。そういう創作を楽しむ部分は、嵩に通じるものがありました。前室でも絵を描いたり、オールアップした方の似顔絵を書いたり、時間があるときは他のキャストの皆さんと“絵しりとり”をしたりと、常に何かを描いていましたし。劇中で絵を描くシーンも楽しく、改めて絵が好きになりました。

-やなせさんは作詞家としても活躍しました。北村さんもバンド“DISH//”で音楽活動をしていますが、影響を受けた部分はありますか。

 やなせさんの言葉に込められた価値観や哲学に、自分と近いものを感じました。僕は、人間に光と影があるように、ポジティブな思いを伝えるには、ネガティブな部分を表現することも必要と考え、これまでも歌詞を書いてきました。それを、天国のやなせさんが「大丈夫だよ」と肯定してくださったような感覚になり、僕自身も救われました。

-嵩を導く師のような存在の八木信之介を演じた妻夫木聡さんとは『ブタがいた教室』(08)以来の共演だったそうですね。

 実は、僕が人生で初めて会ったいわゆる芸能人が妻夫木さんなんです。『ブタがいた教室』は、小学生たちが子豚を育て、最終的にその豚を「食べるか、食べないか」を議論するという食と命の尊さを伝える教育の実話に基づく映画です。僕ら生徒役の子役たちは、撮影前にみんなで合宿をしたり、ドッジボールをしたりと、本当の学校のような生活を送った後、撮影に入りました。そのとき、僕たちの教師を演じてくださったのが、妻夫木さんでした。そういう「生命の尊さ」はやなせさんの思想にも通じるので、この作品で妻夫木さんと“出会い直し”ができたことにはご縁を感じています。

-現場で、北村さんにとって妻夫木さんはどんな存在でしたか。

 妻夫木さんも一緒に前室で過ごし、僕がお芝居で悩んでいると、「嵩のここは…」などと、すくい上げる一言を何度もくださったんです。『アンパンマン』を生み出す過程でも、「嵩の主体性をどこに置くか」という相談に乗っていただいたりして。そんなふうに、嵩にとっての八木さんのように、僕をすくい上げてくれる存在が妻夫木さんでした。

-嵩を演じる上で、妻夫木さんの存在は大きかったのでしょうか。

 妻夫木さんはもちろんですが、この作品に登場する誰か1人が欠けても、柳井嵩は『アンパンマン』を生み出せなかったと思います。この作品では、やなせたかしさんの言葉がさまざまな登場人物のせりふにちりばめられています。その言葉を、これまで出会った登場人物たちが嵩に投げかけ、嵩はそれをひたすら受け止めてきた。だから最後に、のぶの後押しをきっかけに、『アンパンマン』を生み出すことができたわけですから。

-柳井嵩を演じたことは、ご自身にとってどんな経験になりましたか。

 役と一体になって日々を過ごし、お芝居が普通になる感覚が、ぜいたくな時間だったと改めて感じています。毎日お芝居をしている時間が長いので、嵩としてしゃべっている方が、自分にとってニュートラルになってきたんです。それは今まで経験のない感覚で、僕は常に役を客観的に捉えることを心掛けていますが、1年も続くと、どうしても主観的になってしまう瞬間があって。しかも、そういうときにすごくいいシーンが出来上がったりするんです。そんな成功体験もあり、とても有意義でぜいたくな1年間を過ごすことができました。

-貴重な経験だったわけですね。

 そしてもう一つ、僕にとって大きかったのが、“出会い直し”です。今田さんはもちろん、妻夫木さんや主題歌を担当されたRADWIMPSの皆さんなど、これまで出会ってきた多くの方と、この作品で“出会い直し”ができました。僕は来年、役者人生20周年を迎えますが、その総決算のような感覚があって。それくらい多くの再会を経験し、とても大きな財産になりました。

(取材・文/井上健一)

(C)NHK

  • 1
  • 2
 

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

染谷将太 天才絵師・歌麿役は「今までにない感情が湧きあがってきた」 1年間を振り返る【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

ドラマ2025年12月15日

-ご自宅でも絵の練習をされたそうですね。  台本が来るたびに絵を担当するチームとの打ち合わせがあり、練習用の絵が並んだ計算ドリルのようなプリントを数十枚いただくので、それを自宅に持ち帰り、宿題のように繰り返し描いて練習していました。 -歌麿 … 続きを読む

「べらぼう」ついに完結! 蔦重、治済の最期はいかに生まれたか?「横浜流星さんは、肉体的にも作り込んで」演出家が明かす最終回の舞台裏【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

ドラマ2025年12月14日

-治済役が大きな話題となった生田さんについて、撮影を通じて感じた俳優としての魅力を教えてください。  生田さんで印象に残っているのが、何事にも動じないことです。常に泰然自若として、変なクセを出さない。ある意味、視聴者に想像させるようなキャラ … 続きを読む

稲垣吾郎「想像がつかないことだらけだった」ハリー・ポッターの次は大人気ない俳優役で傑作ラブコメディーに挑む【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年12月13日

 稲垣吾郎が、2026年2月7日から開幕するPARCO PRODUCE 2026「プレゼント・ラフター」で傑作ラブコメディーに挑む。本作は、劇作、俳優、作詞、作曲、映画監督と多彩な才能を発揮したマルチアーティスト、ノエル・カワードによるラブ … 続きを読む

DAIGO「クリスマス気分を盛り上げてくれる作品なので、『パーシーのクリスマス急行』にぜひ乗車してください」『映画 きかんしゃトーマス サンタをさがせ!パーシーのクリスマス急行』【インタビュー】

映画2025年12月12日

-パーシーのように、与えられた仕事を楽しくやるコツがあれば教えください。  仕事があることが幸せ。シンプルにそういう意識を持ってやっています。僕もミュージシャンを目指していろいろとやっていましたが、思うようにいかなくて。でも、音楽に対する情 … 続きを読む

高橋克典「これは吉良の物語でもあるのだと感じていただけるような芝居をしたい」 堤幸彦「『忠臣蔵』は、演劇的に言えば1丁目1番地的な作品」 舞台「忠臣蔵」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年12月10日

-堤さんと高橋さんは高橋さんのドラマデビュー作以来のタッグと聞いています。堤さんは高橋さんの吉良上野介にどのような期待を寄せていますか。 堤 ぴったりだと思いますよ。生き馬の目を抜く芸能界で酸いも甘いも知り尽くしていますから。デビューの瞬間 … 続きを読む

Willfriends

page top