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僕は子どもの頃から、絵画教室に通ったり、自宅では粘土で架空のモンスターを作ったりしていました。そういう創作を楽しむ部分は、嵩に通じるものがありました。前室でも絵を描いたり、オールアップした方の似顔絵を書いたり、時間があるときは他のキャストの皆さんと“絵しりとり”をしたりと、常に何かを描いていましたし。劇中で絵を描くシーンも楽しく、改めて絵が好きになりました。
やなせさんの言葉に込められた価値観や哲学に、自分と近いものを感じました。僕は、人間に光と影があるように、ポジティブな思いを伝えるには、ネガティブな部分を表現することも必要と考え、これまでも歌詞を書いてきました。それを、天国のやなせさんが「大丈夫だよ」と肯定してくださったような感覚になり、僕自身も救われました。
実は、僕が人生で初めて会ったいわゆる芸能人が妻夫木さんなんです。『ブタがいた教室』は、小学生たちが子豚を育て、最終的にその豚を「食べるか、食べないか」を議論するという食と命の尊さを伝える教育の実話に基づく映画です。僕ら生徒役の子役たちは、撮影前にみんなで合宿をしたり、ドッジボールをしたりと、本当の学校のような生活を送った後、撮影に入りました。そのとき、僕たちの教師を演じてくださったのが、妻夫木さんでした。そういう「生命の尊さ」はやなせさんの思想にも通じるので、この作品で妻夫木さんと“出会い直し”ができたことにはご縁を感じています。
妻夫木さんも一緒に前室で過ごし、僕がお芝居で悩んでいると、「嵩のここは…」などと、すくい上げる一言を何度もくださったんです。『アンパンマン』を生み出す過程でも、「嵩の主体性をどこに置くか」という相談に乗っていただいたりして。そんなふうに、嵩にとっての八木さんのように、僕をすくい上げてくれる存在が妻夫木さんでした。
妻夫木さんはもちろんですが、この作品に登場する誰か1人が欠けても、柳井嵩は『アンパンマン』を生み出せなかったと思います。この作品では、やなせたかしさんの言葉がさまざまな登場人物のせりふにちりばめられています。その言葉を、これまで出会った登場人物たちが嵩に投げかけ、嵩はそれをひたすら受け止めてきた。だから最後に、のぶの後押しをきっかけに、『アンパンマン』を生み出すことができたわけですから。
役と一体になって日々を過ごし、お芝居が普通になる感覚が、ぜいたくな時間だったと改めて感じています。毎日お芝居をしている時間が長いので、嵩としてしゃべっている方が、自分にとってニュートラルになってきたんです。それは今まで経験のない感覚で、僕は常に役を客観的に捉えることを心掛けていますが、1年も続くと、どうしても主観的になってしまう瞬間があって。しかも、そういうときにすごくいいシーンが出来上がったりするんです。そんな成功体験もあり、とても有意義でぜいたくな1年間を過ごすことができました。
そしてもう一つ、僕にとって大きかったのが、“出会い直し”です。今田さんはもちろん、妻夫木さんや主題歌を担当されたRADWIMPSの皆さんなど、これまで出会ってきた多くの方と、この作品で“出会い直し”ができました。僕は来年、役者人生20周年を迎えますが、その総決算のような感覚があって。それくらい多くの再会を経験し、とても大きな財産になりました。
(取材・文/井上健一)

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