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切腹のシーンは、晴れやかな気持ちで演じることができました。父が恨んでいた田沼家に一矢報いることもできたし、無理して出世することも、認知症の父の世話をする必要もなくなり、ようやくつらい人生を終えることができる。そんな気持ちだったので、「いい空だな…」と空を見上げながら、穏やかな気持ちで最期を迎えました。
最初に意知に家系図を渡すシーンで初登場(第6回「鱗(うろこ)剥がれた『節用集』」)したときは、監督から「何かしでかしそうな、いやらしさを出したい」という話があり、ヴィラン的なイメージで演じていました。ただ、しばらく間が空いて再登場したときは、父親の認知症や引っ込み思案でコミュニケーションが苦手という背景が出てきたので、お芝居の方向性をガラッと変えました。劇中でも数年が経っていたので、最初は頑張って出世を目指したものの、結果的にうまくいかなかった。そこに生活の厳しさと引っ込み思案な自分に対するジレンマが重なったと自分の中で整理し、ネガティブな要素を高めていって。監督やプロデューサーとも、単なるヴィランより、つらい境遇から凶行に追い込まれていく方が効果的だろうと話していました。
森下(佳子/脚本家)さんも、自分で書いておきながら「かわいそうすぎる」とおっしゃっていたそうです(笑)。でも、こんなにかわいそうな人を演じたこともなかったので、とことんかわいそうに見えれば…と思って演じました。
膨大な登場人物がいる中で、僕も含めてそれほど出番の多くない人物まで、すべてのキャラが立っているところが、何より素晴らしいです。その上、基本的なストーリーはシリアスでありながら、明るくテンポよく進んでいく。それをすべて同時に成立させる森下さんは本当にすごい。それは、前回出演した「おんな城主 直虎」(17/脚本は本作と同じ森下佳子が担当)のときも感じていたことで、“森下マジック”だなと。今回も、政言を印象的に描いてくださって感謝していますし、これだけ膨大なキャラクターを描き分ける森下さんの頭の中が一体どうなっているのか、のぞいてみたくなります(笑)。
「おんな城主 直虎」のときは、僕自身が俳優として、周りの先輩方からそれほど認知されていなかった印象があります。それに対して、今回は共演経験のある方も多く、初対面の桐谷健太(大田南畝<四方赤良>役)さんも気さくに接してくださいました。渡辺謙(田沼意次役)さんは初めてお会いした時、「共演したかった」とおっしゃり、他の作品での僕の芝居をまねした上、氷魚くんにも「この作品見た方がいいよ」と勧めてくださったんです。とてもうれしかったのですが、恐縮のあまり「やめてください」という気持ちになりました(笑)。
視聴者の皆さんには、意知がいなくなる寂しさがあると思いますが、氷魚くんと一緒に「べらぼう」全編中で最も熱い回になれば、という思いを持って意知に斬りかかるシーンを作り上げることができたと自負しています。おかげで、収録後は氷魚くんとお互い血まみれのまま、恋人同士のように仲良く手をつないで写真を撮って終わることができました(笑)。収録期間は短かったですが、大切に佐野政言を演じられたと思いますし、今まであまり経験のなかった達成感も湧いてくるなど、充実した時間を過ごすことができました。
(取材・文/井上健一)

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