JT・モルナー監督「この映画の実現は厳しいと言われた時に、『羅生門』を見れば分かると言いました」『ストレンジ・ダーリン』【インタビュー】

2025年7月11日 / 08:00

-最初に35ミリフィルムで撮ったというテロップが出ますが、画面の色遣いや音楽の使い方を見ていると、70年代のニューシネマのような雰囲気があると思いましたが、そういう狙いはあったのでしょうか。

 その通りです。ただ、それはアメリカ映画に限ったことではなくて、例えばケン・ラッセルの『肉体の悪魔』(71)、ジョセフ・ロージーの『召使』(63)、トニー・リチャードソンの『マドモアゼル』(66)などは、フレーミングやカメラのレンズの使い方、それから物語のつづり方を参考にしました。あとは黒澤明の『羅生門』(50)やデビッド・クローネンバーグの『戦慄の絆』(88)も意識しました。色遣いに関しては特に70年代のものに引かれます。当時は色遣いが割と明るくてはっきりしていて、ちょっとポップなことに加えて、フィルムならではのざらざらした感じがありました。その両方の組み合わせが、独特な雰囲気を生んでいたと思います。例えば『俺たちに明日はない』(67)『ファイブ・イージー・ピーセス』(70)『赤い影』(73)といった作品にもそれは共通してあった要素だと思います。

-最近の映画にしては珍しくたばこの火や煙、それから赤を基調とした色遣いが印象的でした。小道具としてのたばこの使い方も70年代っぽいなと思いました。

 もともと赤が大好きです。今はたばこを吸うシーンは物議を醸し出すので結構控えられています。けれども、たばこの火や煙は映画的には魅力があります。正しい理由でフィーチャーすることができれば、すごくすてきなものだと思うし、かつて見た映画の記憶やキャラクターのタイプに回帰させてくれる効果もあって、ワクワクする要素ではあります。僕が若い頃に夢中になって見ていた『ブラッド・シンプル』(84)『グッドフェローズ』(90)『ナチュラル・ボーン・キラーズ』(94)といった映画の中では、皆が頻繁にたばこを吸っていました。そのイメージが今でも自分の中に残っていることもあるかもしれませんが、ただそれを見せたかったわけではなくて、今回のキャラクターにとても合っていたから使ったということです。

-これから映画を見る日本の観客や読者に向けてアピールも含めて一言お願いします。

 日本は、世界的にも大きな影響を与えた映画をたくさん生んだ国であり、アメリカでは必ずしも観客があまり見ないような作品も、日本の観客はたくさん見てくれています。だからこそ、僕にとって日本はとても大事な場所です。日本の皆さんがこの作品をどのように感じて、どうリアクションをするのかをとても楽しみにしています。「この映画の実現は厳しい」と言われた時に、「『羅生門』を見れば分かるよ」と言いました。悲劇的な事件を違った視点から描いていくという構造は、複雑ではあるけれども決して分からないことはないわけです。モラル的に何が正しいのかが、見る人によって違うこと自体がとても怖いことだと思います。だからこそ、そういうストーリーを描きたいという気持ちにさせてくれたのが『羅生門』でした。

(取材・文/田中雄二)

(C)2024 Miramax Distribution Services, LLC. ALL rights reserved.

  • 1
  • 2
 

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

鹿賀丈史「演じることよりも感じることの方が先だったかなと思います」『生きがい IKIGAI』【インタビュー】

映画2025年7月10日

-2度の災害を経験して行き場のない怒りを抱いている山本が、ボランティアの若者と出会って心が解けていって笑顔を浮かべる場面が印象的でしたが、若者役の小林虎之介さんとの絡みはいかがでしたか。  僕は若い人と芝居をするのがすごくうれしいんです。今 … 続きを読む

千賀健永、頭が良くてゲームが上手な弟に「かわいい復讐心はありました」【インタビュー】

ドラマ2025年7月7日

 トリンドル玲奈が主演するドラマ「レプリカ 元妻の復讐」が、7日23時6分からテレ東系で放送がスタートする。本作は原作・タナカトモ氏、作画・ひらいはっち氏による同名漫画を映像化。整形して別人として生きる主人公・伊藤すみれ(トリンドル)が、人 … 続きを読む

安田顕「水上くんの目に“本物”を感じた」水上恒司「安田さんのお芝居に強い影響を受けた」 世界が注目するサスペンスで初共演&ダブル主演「連続ドラマW 怪物」【インタビュー】

ドラマ2025年7月5日

-そのほか、撮影を通じて特に印象に残ったことがあれば教えてください。 安田 撮影が終盤に差し掛かった頃、原作者のキム・スジンさんにお目にかかる機会があったんです。キム・スジンさんは、それぞれのキャラクターに、ものすごく細かいバックボーンを作 … 続きを読む

TBS日曜劇場「19番目のカルテ」が7月13日スタート 新米医師・滝野みずき役の小芝風花が作品への思いを語った

ドラマ2025年7月5日

-松本さんとは初共演ですね。現場での印象は?  「はい、行くよ!」って声をかけて引っ張っていってくださる兄貴肌です。スタッフの皆さんとも積極的にコミュニケーションを取っていらっしゃる姿も見ますし、松本さんの存在で撮影現場全体が活気づいている … 続きを読む

南沙良「人間関係に悩む人たちに寄り添えたら」井樫彩監督「南さんは陽彩役にぴったり」期待の新鋭2人が挑んだ鮮烈な青春映画『愛されなくても別に』【インタビュー】

映画2025年7月4日

-陽彩はいわゆる“毒親”の母と2人で暮らすうち、自分の人生に期待を持てなくなってしまった人物です。そういう役と向き合うお気持ちはいかがでしたか。 南 陽彩にとって、親や家族は、居場所であると同時に、自分を縛る呪いのようなものでもあったと思う … 続きを読む

Willfriends

page top