和田正人「認知症ご本人も普通に暮らしていける」 若年性認知症の主人公役に込めた思い『オレンジ・ランプ』【インタビュー】

2023年6月24日 / 10:00

-そうすると、役作りのための丹野さんとのやり取りはどのように?

 撮影に入る前に何度かお会いした中で、丸1日しっかりとお話を聞く機会がありました。現場にもよくいらっしゃっていたので、「このとき、どんな感じでした?」とアドバイスを求めたこともあります。そんなときも、丹野さんはすごくおおらかに明るく接してくださったので、とても頼もしかったです。

-演じる側としては、安心できますね。

 ほかにも、「認知症ご本人に読んでほしい本」と「認知症患者の周囲の方に読んでほしい本」の2種類の本を丹野さんが書いていらっしゃったので、参考までに、認知症ご本人向けの本を読ませていただきました。そうしたら、認知症の症状による苦しみ以上に、周りから「外を出歩かないで」「何もしなくていいから、じっとしていて」「会社も辞めて」と言われる状況が一番苦しかったそうなんです。それが原因で病気になって亡くなる方が多いとも書かれていましたし。

-丹野さんはなぜ、そういう苦しさを乗り越えられたのでしょうか。

 その点は役作りにおいても大事なことなので、僕自身もよく考えてみました。丹野さんは優秀な営業マンで、家族や仲間、会社の部下や上司にも恵まれ、順風満帆な生活を送っていました。そんなときに突然、大好きな仕事を奪われることになったら、僕だったらどう思うだろうと。陸上を捨ててまで俳優になった僕が、今その俳優の仕事を奪われたら、生きていけるだろうか。その上、心配してくれているとはいえ、今まで仲良くやってきた妻の態度が急に変わる。そういうことを想像していくと、誰だって絶望的な気持ちになるよなと。認知症ご本人だったら、恐らくそこまで考える人はいっぱいいると思うんです。

-でも、丹野さんはそうならなかったと。

 丹野さんは発病する以前から、困っている部下に手を差し伸べたり、飲み会の盛り上げ役を買って出たり、いろんな人たちに気配りや心配り、優しさをたくさん振りまいてきたと思うんです。だから、いざ認知症と分かったとき、みんなが手を差し伸べてくれたのかなと。発症するまで40年近く、そんなふうに生きてきたことを考えたら、すごく納得できました。

-なるほど。

 とはいえ、丹野さんのような前向きなバイタリティーは、全員がまねできるものではないかもしれません。その点は確かに、丹野さんのすごいところだと思います。でも同時に、他の人には無理なのかと考えてみると、諦めることはないんじゃないかなと。他にも丹野さんが実践できていないやり方でやっていける人たちが、これからもたくさん出てくるに違いありません。そのために一つの参考として、こういう生き方があるんだよ、ということを映画で示すのは、すごく意味のあることじゃないかと思います。実際、試写が終わったとき、丹野さんの表情を見たら、「とてもいいものができたな」という手応えもありましたから。

(取材・文・写真/井上健一)

(C)2022 「オレンジ・ランプ」製作委員会

 

  • 1
  • 2
 

関連ニュースRELATED NEWS

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

松下由樹 長年の活躍を支えてきた信条は「自分だけでなく、共演者や周りの皆さんにとってもいい結果が得られるように」「ディアマイベイビー~私があなたを支配するまで~」【インタビュー】

ドラマ2025年6月6日

-そのきっかけになった出来事はあったのでしょうか。  大きなきっかけになったのは、「ナースのお仕事」(1996~2014年にかけてシリーズ化)です。あの作品では、主人公の新米ナース、朝倉いずみ(観月ありさ)と私が演じた先輩・尾崎翔子の関係を … 続きを読む

【週末映画コラム】伝統について考えてみる 歌舞伎役者として芸道に人生をささげた男『国宝』/京都愛の強過ぎる女性が引き起こす大騒動『ぶぶ漬けどうどす』

映画2025年6月6日

『ぶぶ漬けどうどす』(6月6日公開)  京都の老舗扇子店の長男と結婚し、東京から引っ越してきたフリーライターの澁澤まどか(深川麻衣)。450年の歴史を誇る老舗の暮らしぶりをコミックエッセーにしようと、義実家や街の女将さんたちの取材を始めるが … 続きを読む

深川麻衣「いまさら聞けない疑問を、まどかが突っ込んで聞いているので、それを楽しんでいただけたらうれしいです」『ぶぶ漬けどうどす』【インタビュー】

映画2025年6月5日

-コメディーは好きですか。  コメディー作品は好きなんですけど、演じるのはコメディーが一番難しいです。自分が面白いと思っても、それを狙ってやるとよくなかったりもします。あくまでも本人たちが一生懸命やっていることが逆におかしいし、滑稽に見える … 続きを読む

フレッド・ヘッキンジャー「トム・クルーズがものすごいアクションをしてハラハラドキドキするようなことが、日々の生活の中にもあるかもしれない」『テルマがゆく! 93歳のやさしいリベンジ』【インタビュー】

映画2025年6月4日

-『ミッション:インポッシブル』のトム・クルーズがテルマの後押しをするところが面白かったです。  『ミッション:インポッシブル』は僕も大好きです。父と新作が待ちきれないと話し合ったばかりです。ジョシュが「自分のおばあちゃんが寝返りを打つのを … 続きを読む

原菜乃華「キャッチコピーは『劇場型お化け屋敷』でお願いします」『見える子ちゃん』【インタビュー】

映画2025年6月4日

-撮影現場の雰囲気はいかがでしたか。  ずっと和やかでした。監督が、カットがかかるたびにパーっと走って近くまで来てくださって、目線を合わせて、「さっきのはすごく良かった」と。毎回同じ目線に立って演出をつけてくださるんです。「僕はホラーをたく … 続きを読む

Willfriends

page top