「不良少女とよばれて」(84)や「スクール☆ウォーズ」(84)など、大映テレビのドラマに数多く出演し、人気を博した松村雄基。1990年以降は、ドラマや映画のみならず、舞台出演にも力を注ぎ、その存在感を発揮している。6月8日から開幕する舞台「黄昏」には、高橋惠子演じる主人公・エセルの娘の恋人・ビル役で出演。老夫婦が美しい湖畔で過ごすひと夏を通して「家族の絆」を描く本作への意気込み、そして自身の俳優人生への思いを聞いた。
-2018年、20年に続き、3度目の出演となる本作ですが、改めて松村さんが演じるビルという役柄について、どう感じていますか。
ビルはチャレンジャーな人だと思います。偏屈とうわさされる恋人の父親のところに、「こちらは再婚で、子どももいますが、娘さんをください」とお願いにいくのですから(笑)。ですが、元来が明るく素直な人間で、そこに瀬奈(じゅん)さん演じる恋人のチェルシーも引かれたんだとも思います。
-ビルに共感できるところはありますか。
共感というよりは、(初めに脚本を読んだときは)その突飛な行動力に対して驚きの方が大きかったです。最初は笑顔で人当たりがいいのですが、窮地に立たされた途端、突然人が変わったように頑固おやじに挑んでいくんですよ。それは、彼にとっても予想外の出来事に出会った末のことだったとは思いますが、その潔さにびっくりしました。僕にはできないです。
-心情の変化や心の機微が描かれる本作では、演じる上でどのような点に難しさを感じていますか。
チェルシーの父・ノーマンにいろいろな言い方で「娘さんをください」と必死で伝えても、ノーマンが聞かないふりをするというシーンは、リアルではあるけれども、演じるのはとても難しいです。(80年代に松村が出演していた)大映ドラマもそうでしたが、僕は印象に残るアクションを多く演じてきた役者生活でしたので、今作のような日常的なリアルな会話でのお芝居というのは、あまり経験が多くなく、最初はプレッシャーもありました。ですが、演出家の鵜山(仁)さんとディスカッションを重ねる中で、僕なりの思いを込めていけばいいのではないかと思うようになり、今は楽しくなってきましたが…、それでもやっぱり難しいです。
-家族の絆が描かれる本作にちなんで、松村さんにとって “家族の存在”とは?
この年齢になってくると、家族とは血縁や制度に関わらず、信じ、待ち、許し、守りたくなる相手だと思うようになりました。「信じ、待ち、許す」という言葉は、僕が20歳のときに出演した「スクール☆ウォーズ」で、山下真司さんが演じた滝沢先生が生徒に教えてくれた言葉です。(同作の中では)「愛する者とは、信じ、待ち、許すことができる相手」であることや、「人は愛する者を守るために生きる」ということを伝えていました。そう思える相手こそ、家族なんじゃないかと僕は思います。もちろん血縁でつながっている家族もそうでしょうが、血縁がなくとも、そう思える人は家族と同じ。例えば、僕の事務所の社長には、僕が14歳のときにスカウトされてから45年もお世話になっています。僕にとっては、信じ、待ち、許し、そして守りたい人です。なので、血縁関係にはないけれども、僕にとって家族同然です。
-ところで、俳優として40年以上のキャリアを誇る松村さんですが、そのキャリアの中でも特に印象に残っている作品は?
やはり大映テレビの作品です。それがあったから今があるんじゃないかと思います。特に「不良少女とよばれて」で不良少年役を演じてからは、不良役をたくさん頂くようになりました。そうして、「スクール☆ウォーズ」に出演することができ、世間での認知度が高まり、役者を続けてこられたんだと思います。その頃、僕は20歳前後で、始発で現場に向かい、終電で帰ってくるような毎日で、ただただガムシャラでした。今思うと、それが僕の青春だったんだと思います。
-デビュー当時と現在とで、芝居に対する思いも大きく変わったのではないかと思いますが、何かターニングポイントはありましたか。
言い訳になってしまいますが、デビューのきっかけがスカウトだったこともあり、デビュー当時は演じることにあまり興味がありませんでした。ところが、「ぼくらの時代」(81)というドラマに生徒役で出演したときに、不良にいじめられているところを先生に助けてもらうというシーンで、台本には書かれていなかったのに、気持ちが熱くなって号泣してしまったことがあったんです。そのときに、芝居って不思議だと感じたのが(芝居への思いが変わった)最初のきっかけでした。
その後、「スクール☆ウォーズ」などのドラマを無我夢中でやっているときは、与えられたせりふを言うことだけで精いっぱいでしたが、時間を経て、舞台に出演するようになって、2度目のターニングポイントがありました。映像作品の場合、カメラに向かって演技をするので、視聴者のリアクションを生で感じることはできません。ですが、舞台では僕たちの芝居に対するリアクションがその場で返ってくる。そして、それが僕たちを動かす感覚がありました。当時、さまざまな演出家の方から「芝居とはエネルギーのキャッチボールだ」というアドバイスを頂いたのですが、まさにそれを実感し、「僕たちはお客さんの心を揺さぶって、喜んでもらわないといけない。それが役者なんだ」と気付きました。そこから、10代、20代で考えていた役者業とは全く違う方向にシフトしていきました。
-なるほど。そうして、今がある?
そうですね。それから、最近では、コロナ禍も考えが変わるきっかけになりました。どこか、お客さんに劇場に見に来ていただけることは当然だと思っていたところがあったんだと思います。それが、当たり前ではなかったと気付かせてくれたのがコロナ禍でした。役者ってなんなんだろうと思ったこともありました。ですが、同じ役者たちがコロナ禍でも配信を行ったり、これまでとは違う形であっても、お客さんに思いを伝えようとしている姿を見て、役者は決して不必要な存在ではないと強く思うようになりました。今、僕にとって、役者は生きるために欠かせないものですし、芝居をしてそれを見ていただくことは意味のあることだと強く思うことができるようになってきました。
-改めて、公演への意気込みを。
この作品は、息苦しさをひととき忘れて、生きるということは素晴らしいことだと感じさせてくれる作品だと僕は思います。見てくださるお客さんの心が少しでも安らぎ、温かい気持ちになっていただけるように、僕らは精いっぱい務めていきたいと思いますので、ぜひ劇場に足をお運びください。
(取材・文/嶋田真己)
舞台「黄昏」は、6月4日に都内・江東区文化センター ホールでプレビュー公演、6月21日〜26日に都内・紀伊國屋ホールほか、大阪、兵庫、金沢、愛知、長野で上演。
公式サイト https://www.stagegate.jp/stagegate/performance/2022/tasogare_2022/