通信教育講座「こどもちゃれんじ」の人気キャラクター・しまじろうが活躍する、劇場版シリーズの第9作、映画しまじろう『しまじろうと キラキラおうこくの おうじさま』が3月11日から公開される。今回は、キラキラ王国にやって来たしまじろうが、危機にひんした王国を救うため、パール王子と共に奮闘する冒険物語。本作で、パール王子の母・エメラルダ女王の声を演じ、さらに主題歌「君のまんまが いいんだよ」(作詞・作曲:ヒャダイン)を歌唱したタレントの中川翔子に、作品への思い、自身の子ども時代などについて聞いた。
-本作のオファーが来たときの心境は?
しまじろうとは、誕生日が5月5日で一緒なんです。ずっと意識し続けてきたしまじろうと、ついに一生残るお仕事ができるんだ、“運命来た!”と思って「来た!」と言っちゃいました(笑)。
-エメラルダ女王役は、初めての母親役でした。
ついに来たという感じ。アンドロイドとか、女神とか、本当にいろんな役をやってきたのですが、母親役というのは、やはりすごく意識はします。母親ってどんな感じなんだろうって…。
-演じる上で意識したことは?
以前、ポケモンの(看護医の)ジョーイさんの声を担当したときに、お姉さんの声を作って収録に行ったら、音響監督さんに「いやいや、中川さんは既に大人だから、そこにお姉さんを足すとすごいお姉さんになっちゃう。むしろ下げて」と言われて。「ああ、そうか」って。そのときの教えを思い出しながらやりました。お母さんだからと思って“お母さんみ”を出し過ぎると、うそっぽくなっちゃうので。
今回のエメラルダ女王も、夫が早くに亡くなってしまっていて、それはうちの母とも重なりました。うちの母は、日々忙しそうにしていました。それでも、楽しいお母さんで、寂しいとかはなくて、そういうお母さんだなと思っていました。エメラルダ女王もすごく忙しく働いているけど、きれいにされているから、美容とか意識しているのかな、などと想像して、無理にお母さんぽくせず、自然に優しさが出たら、と演じました。
-主題歌「君のまんまが いいんだよ」は、「自己肯定感」がテーマになった歌でもあります。
「自己肯定感」という単語は、大人になってからの私のテーマでもあったので、すごいタイミングでこの曲が来たなって。映画にもぴったりだと思いました。大人が褒めてあげることってすごく大事。それが子どもの未来が大きく動く種にもなったりもする。子どもたちが「自己肯定感」について考えるのは、多分相当後だと思うけど、いずれメッセージが届けばいいなって。ここ2年ぐらいで、「小さい頃、しょこたんのこと見ていました」と、声を掛けられる率がすごく増えたんです。なので、今回の歌を通して“エア子育て”ができていたらいいなと思います。
-中川さんはどういう子育てをしたいですか。
家庭に入って、ずっと家事をするとかは絶対にできないと思います(笑)。自分の母のことを振り返ると、本当にずっと寝ているし、ご飯を全然作らないし…(笑)。でも、父が早くに亡くなったときに、お金がないけど、貯金をはたいて、フロリダのディズニー・ワールドに連れて行ってくれたのは衝撃の体験でした。そこで買ってもらったアリエルのセル画セットは宝物で、その体験が、後にアニメの原画を描く仕事に役立ったりもしました。
また、母は夜遅くに帰ってくることが多かったんです。小さい頃は起きて待っていて、「このゲームにハマっているんだよ」と言ったら、一緒にファミコンをやってくれたりしました。相当疲れていたと思うのですが。だから、私も子どもと友達にみたいになりたいです。一緒に絵を描いたり、ゲームをしたり。いつか子どもに読ませたいなと思って、図鑑や漫画の愛蔵版などをたくさん買ってあります。
-お母さんに厳しい面はありましたか。
私が「学校に行きたくない」となった時期に、行きたくない理由は、私は言いたくなかったんです。母は“陽キャ”で友達いっぱいいるけど、私は全然友達ができなくて、まだオタクが虐げられる時代だったから、絵を描いているだけで「オタクきもい」と言われたりして。本当に嫌で「行きたくない」とちょうつがいを買ってきて鍵を閉めたら、「学校行け!」って扉を蹴破られたことがあります(笑)。
でも、途中から「そうか、翔子に合う環境を探そう」となって、通信制の芸能コースのある学校を探してくれたんです。そこは風通しがよくて、ヤンキーから家に引きこもっている子まで本当にいろんな人がいて、自分にはすごく合っていた。そういう道筋も、自分一人では探せなかったと思うし、感謝しています。他のおうちの家庭的なお母さんもいいなあ、と思っていたんですけど、うちはこうだったから、自由に好きなこともできた。それが全て、結果オーライになっているというか。
-子育ての夢はありますか。
「お母さん、しまじろうの映画の歌を歌っているんだよ」って、言いたいなという思いはあるので諦めずに…(笑)。ちょっとタイミングが分からないのですが、いつか母になれたらいいなとは思います。また、そうでなくても、コロナ禍の前は、イベントで子どもたちとたくさん触れ合えたんです。イベント始まる前から合唱してくれたりして、それはもう泣けました。「絶対これ、いい思い出になるじゃないか!」って。誰かの人生の風が吹く瞬間をお手伝いできていたとしたら、それはめちゃめちゃすてきなことだと思います。
-子ども時代の中川さんに会えるとしたら、何かしてあげたいことはありますか。
この10年ぐらい、そういうことを結構考えるんですが、「君のまんまがいいんだよ」と言ってあげたいです。「『自分はどうせ駄目なんだ』と落ち込む気持ち、すごく分かる。でも今は“さなぎの時間”だから。今、心の穴を埋めるためにやっている、漫画を読んだり、絵を描いたり、好きな曲を歌ったりしていることが、全て大人になった私を助けてくれるから。生きていてくれてありがとう。そしてそのまま続けてくれ」と、伝えると思います。
-それは何歳ぐらいの中川さんをイメージしていますか。
多感な13歳ぐらいかな。小学校までは楽しかったけど、中学から急にみんな大人の感じになって「私、全然できない。どうしよう!」ってガーンときたんです。でも一生モノの趣味に出会ったのも13歳。13から18歳まではすごく不安定で、思春期の衝動、闇に押しつぶされそうになった時期でした。でも、その闇を消し去るために、好きなことで無理やり時間をつぶしていたことが、後から本当によかったなと思うので。「命がきらめく、それだけで大丈夫、君は君のまんまがいいんだよ」と。まさにヒャダインさんの歌詞の通りだと思います。
(取材・文・写真/山中京子)
中川翔子 ニューシングル「君のまんまが いいんだよ」2022年3月9日(水)発売。「君のまんまが いいんだよ」…映画しまじろう「しまじろうと キラキラおうこくの おうじさま」主題歌