つかこうへい演劇祭 ―没後10年に祈るー 第二弾「改竄・熱海殺人事件」が上演中だ。つかこうへいの代表作の一つであり、これまでに何度も再演を重ねてきた「熱海殺人事件」だが、令和初上演となる今回は、「ザ・ロンゲストスプリング」と「モンテカルロ・イリュージョン」の豪華2本立てで送る。決定版として有名な「ザ・ロンゲストスプリング」で、木村伝兵衛部長刑事を演じるのは荒井敦史。捨て身の潜入捜査を行う水野朋子役を馬場ふみかが演じる。一方、「モンテカルロ・イリュージョン」は、かつて阿部寛が主演し、数あるバージョンの中でも異端とも言われる作品。木村伝兵衛部長刑事を多和田任益、木村のパートナーの警官・水野朋子役を兒玉遥が演じる。同じ水野役を演じながらも、全く違ったキャラクターを作り上げている馬場と兒玉に公演への意気込みを聞いた。
-開幕を間近に控え、稽古にも熱が入っている時期かと思いますが、稽古の進み具合はいかがですか。
兒玉 私はこの作品が舞台は2作品目になるんですが、「モンテカルロ・イリュージョン」は歌と踊りも入り、多様性が求められる作品だと思うので、しっかりとやり切りたいなと思います。
馬場 「ザ・ロンゲストスプリング」チームは、今日(取材日)、初めて衣装を着ての通し稽古をするのですが、衣装を着ることでまた新しく気付くこともあると思うので、まだまだやらなくてはいけないことがたくさんあるという気持ちです。
-お二人が稽古場で意見を交わすようなことはあるんですか。
馬場 それぞれのバージョンごとにお稽古をしているので、入れ替わりのタイミングであいさつするくらいで、実はしっかりとお話はできていないんです。
兒玉 同じ水野役なので、もっとお話ししたいと思っていたのですが…。こうやって対談をするのも初めてなので今日はうれしいです!
-では、改めて、舞台への出演が決まったときの気持ちを教えてください。
兒玉 私は(2019年に上演された「熱海殺人事件 LAST GENERATION 46」で水野を演じた)今泉佑唯ちゃんから、稽古でいっぱい悩んだという話を聞いていたので、私にできるかなという不安やプレッシャーがありました。でも、任されたからには、私が演じる意味を考えて、作品にとっても、自分にとっても、プラスになるように頑張ろうと思っています。
馬場 私も、心のどこかであの舞台に立ちたいという気持ちがあったので、お話を頂けたときはうれしかったですが、同時に自分にできるのかなという気持ちもありました。でも、今回を逃したら一生できないと思ったので、これは絶対にやらなくちゃと思ってお受けいたしました。
-「モンテカルロ・イリュージョン」の魅力や見どころは?
兒玉 歌やダンスが入る華やかなステージで、一人一人のエピソードがしっかりと描かれています。そのエピソードは、時系列も場所もバラバラではあるのですが、最後にはしっかりとまとまるので、全体の雰囲気を楽しみながら見ていただけるといいと思います。
-「ザ・ロンゲストスプリング」は決定版ともいわれるバージョンですが、こちらのバージョンの魅力は?
馬場 今回は(演出の)中屋敷(法仁)さんが男女の話を選んで脚本にしています。なので、登場人物たちが、それぞれに自分の女の話、男の話をひたすらしているんです。「私の男は」「俺の女は」ってぶつけ合っているので、胸焼けがするぐらい暑苦しいと思います(笑)。
-バージョンによって同じ水野でもキャラクターが全く違うと思いますが、お二人はそれぞれ水野という人物をどうとらえていますか。
兒玉 モンテカルロでは、水野は木村部長のことを好きなのに、木村部長がバイセクシャルなので相手にされず、ずっと一方通行なんです。思いが報われることはないのに、水野は真っすぐに木村を思っています。好き過ぎて、究極の状況になって、すごくダサい言葉を言ってしまったりもするのですが、そんな気持ちを応援しながら見てもらえたらうれしいです。
馬場 ロンゲストでは、水野と木村の関係性が全く違います。お互いに好きなんだけど、絶対に交わらない。劇中では、気持ちが通じているようなシーンもありますが、どうしてもたどり着かない。もどかしい二人なので、演じていると切なくなります。
-中屋敷さんの演出の印象は?
兒玉 タイトルに「改竄(かいざん)」という文字が入っていたので、どういう意味だろうと思っていたのですが、お稽古が始まったら最初の台本から変更することも多くて、まさに「改竄」しながら物語を作っている気がします。
馬場 うん。それから、中屋敷さんは、ここでこういう動きをしてほしいと、細かく演出をしてくださるので演じやすいですね。その動きも、何度か演じているうちにしっくりきて、意味のあるものになっているので、素晴らしい演出だと思います。
-稽古場の雰囲気は?
兒玉 稽古の途中で中屋敷さんの雑談タイムが入るんですよ。最初は、何でこのタイミングで、こんな小話をしているんだろうって不思議だったんですが(笑)、よく聞いてみたら、そのお話がお芝居のポイントにつながるんです。
馬場 すごいよね。
兒玉 うん、それに楽しい! なので、今は小話が始まると聞き入っています(笑)。
馬場 ロンゲストチームは仲がいいです。先にモンテカルロチームが稽古をしていて、私たちが途中から稽古場に入ることがあるのですが、ついつい話が盛り上がってしまうので、きっとモンテカルロチームの人たちはうるさいんだろうなと思います(笑)。
―最後に、公演への意気込みを。
兒玉 開幕まではできる限りのことをして、本番では、毎日稽古でやってきたことを信じて、やってきたことを発揮するのみだと思っています。見に来てくださる方が「いい作品だったな」って感動していただけるように、開幕まで、しっかりと気を引き締めて頑張っていきたいと思います。よかったら劇場に足を運んでください。
馬場 長い歴史のある作品ですが、今回、私たちこの8人で二つのバージョンを同時上演します。それぞれに魅力がある作品になると思うので、どちらのバージョンも見ていただけるとうれしいです。この作品は、自分がお芝居を続けていく中で、大きなものになるという確信があるので、本番まで全力でお稽古していきたいと思います。見にきていただける皆さまにすてきな作品がお届けできるように精進します。
(取材・文・写真/嶋田真己)
つかこうへい演劇祭 ―没後10年に祈るー 第二弾「改竄・熱海殺人事件」は、30日まで都内・紀伊国屋ホール(ザ・ロンゲストスプリング、モンテカルロ・イリュージョン)ほか、大阪、福岡で上演。公式サイト https://www.atami2020.jp
*施設内の換気、客席、トイレ、ロビーの手すりや扉のアルコール消毒の実施、屋外に通じる非常口を開放した大規模な換気など、劇場ではできる限りの新型コロナウイルス感染拡大における対策を行って上演中。なお、今後については、政府機関の発表などを注視しながら、状況の変化に伴い、公演に関する通知がある場合には、公式HPならびにSNSで通知する。