【インタビュー】『この道』大森南朋「白秋の“ぶざまだけど天才”という部分が表現できればいいかなと」

2019年1月7日 / 12:00

 「雨降り」「ゆりかごのうた」「からたちの花」「この道」「ペチカ」「あわて床屋」「待ちぼうけ」など、数々の童謡を残した詩人・北原白秋の波乱に満ちた半生を、音楽家・山田耕筰(AKIRA)との友情を軸に描いた佐々部清監督の『この道』が2019年1月11日から全国公開される。本作で白秋を演じた大森南朋が、役作りや、白秋に対する思いを語った。

(C)2019映画「この道」製作委員会

-この映画のユニークなところは、北原白秋を偉人としてではなく、今で言う“ダメンズ”として描いているところだと思いました。佐々部清監督は『アマデウス』(84)のモーツァルトをイメージしたとのことですが、演じる上で心掛けたことはありましたか。

 実際にいらっしゃった方なので…、ご本人やご遺族の方に怒られるぐらい(笑)、はみ出してやれればいいのかなと思いながら演じていました。『アマデウス』のことは、脚本を読んだときに、キャラクターの色分けがはっきりしていたので、「あー、そういうことなのか」とは思いました。ただ、『アマデウス』のモーツァルトはなかなかの狂気の人なので、あそこまでやるとご遺族の方に怒られるなと(笑)。監督にも止められたので、ぎりぎりのところで面白くなればと。白秋の“ぶざまだけど天才”という部分が表現できればいいかなと思いました。

-ご自身が抱いていた白秋に対するイメージは、どのようなものでしたか。

 もちろん北原白秋という存在や、作品も幾つかは知っていましたが、あくまでも教科書に出てくる偉人というイメージでした。なので、演じるに当たり、少しは白秋のことを知らなければと思い、彼の故郷の柳川を訪ねたりもしました。また、いろんな歌を聴いたり、詩を読んだりもしたので、「この作品も白秋さんだったんだ」ということを知ることができました。いろいろな話を聞くと、白秋にはこの映画が描いたような面もあったのかなとは思いますが、勝手にイメージを浮き上がらせてしまったので大丈夫かな、という心配もあります。

-この映画の白秋はとても無垢(むく)な人物として描かれていました。その無垢さ加減を、どのように表現しようと考えましたか。

 まず、無邪気さや子どもっぽさを前に出せば、その奥に、物書きとしての純粋な面が自然と出てくると考えました。無垢さを、子どものような無邪気さと捉えてやっていました。ただ、この映画を撮影しているときは46歳でしたので、大丈夫かな、こんなに無邪気でいいのかなと思い、泣く場面などは、恥ずかしさと闘いながら演じているときもありました。

-その半面、白秋は女性からもインスピレーションを得たところがありますね。

 子どもは無邪気に女の人を好きになるので、多分白秋もそういう人だったのではないかと推察します。本当に悪気のない人だけど、それが罪になるという…。こんなことを言うと「俺はこんなんじゃない」と白秋さんに怒られるかな(笑)。

-この映画は、実在の人物をあえてリアルに描かないという手法が取られていますね。

 映画はもともとエンターテインメントですし、面白い方がいいに決まっています。これが普通の伝記映画だったらむしろ詰まらなかったと思います。このぐらいふざけてもいいということで、かえってやる気が増しました。

-AKIRAさんが演じた山田耕筰との関係を、どのように捉えて演じましたか。

 この映画の中の2人について、監督は「夫婦みたいな関係」と言っていましたが、そういう人間同士の距離が、物語の中でちゃんと表現できれば、おのおのが浮き上がってくるのかなと思いながら演じていました。

-白秋の詩をラップのように表現するシーンが印象的でした。

 あれはまだメロディーが付く前という設定でしたので、監督から「メロディーを付けちゃ駄目だよ」と言われたのですが、僕の中には歌として刷り込まれているので、表現するのは結構大変でした。

 
  • 1
  • 2

関連ニュースRELATED NEWS

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

多部未華子「学びの多い現場でした」DV被害者役に挑んだヒューマンミステリー「連続ドラマW シャドウワーク」【インタビュー】

ドラマ2025年12月1日

 WOWOWで毎週(日)午後10時より放送・配信中の「連続ドラマW シャドウワーク」は、佐野広実の同名小説を原作にしたヒューマンミステリー。  主婦の紀子は、長年にわたる夫の暴力によって自己喪失し、すべて自分が悪いと考えるようになっていた。 … 続きを読む

森下佳子「写楽複数人説は、最初から決めていました」脚本家が明かす制作秘話【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

ドラマ2025年12月1日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、まもなくクライマックスを迎える。これまで、いくどとなく視聴者を驚かせてきたが、第4 … 続きを読む

富田望生「とにかく第一に愛を忘れないこと」 村上春樹の人気小説が世界初の舞台化【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年11月30日

 今期も三谷幸喜の「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう」に出演するなどドラマや映画で注目を集め、舞台やさまざまなジャンルでも活躍する富田望生。その富田が、2026年1月10日から上演する舞台「世界の終りとハードボイルド・ワンダ … 続きを読む

【映画コラム】実話を基に映画化した2作『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』『栄光のバックホーム』

映画2025年11月29日

『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』(12月5日公開)  太平洋戦争末期の昭和19年。21歳の日本兵・田丸均(声:板垣李光人)は、南国の美しい島・パラオのペリリュー島にいた。漫画家志望の田丸はその才能を買われ、亡くなった仲間の最期の雄姿を遺族 … 続きを読む

氷川きよし、復帰後初の座長公演に挑む「どの世代の方が見ても『そうだよね』と思っていただけるような舞台を作っていきたい」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年11月29日

 氷川きよしが座長を務める「氷川きよし特別公演」が2026年1月31日に明治座で開幕する。本作は、氷川のヒット曲「白雲の城」をモチーフにした芝居と、劇場ならではの特別構成でお届けするコンサートの豪華2本立てで贈る公演。2022年の座長公演で … 続きを読む

Willfriends

page top