漫画、アニメ、ゲームなどのいわゆる2次元作品を、3次元化した舞台作品「2.5次元ミュージカル」。現在、年間150万人以上の観客動員を記録し、さらなる発展が見込まれるカルチャーとして高い注目を集めている。しかしながら、それがどんなものなのかを知らない人も多いのではないだろうか。今回は、日本2.5次元ミュージカル協会の代表理事を務め、演劇プロデューサーでもある松田誠氏に、「2.5次元ミュージカル」の定義、そしてその魅力を聞いた。
-2.5次元ミュージカル(以下、2.5次元)が生まれた背景を、日本2.5次元ミュージカル協会代表理事というお立場からご紹介ください。
ここ数年で急激にタイトルが増えて一つの流れになっていますが、起源という意味では、宝塚歌劇団の『ベルサイユのばら』までさかのぼれると思っています。いわゆる2.5次元の台頭というと、ここ10年ぐらいだと思います。
-歌舞伎で『ワンピース』や『NARUTO-ナルト』を原作とした作品が上演され、大きな話題を呼びましたが、そういった作品とのすみ分けはどうお考えですか。
まず、お客さまの年齢層が違います。演劇界において2.5次元のお客さまは、若い層が圧倒的に多いんです。そういう意味では、2.5次元のライバルは歌舞伎や欧米のミュージカルというよりは、ディズニーランドなんです。若い人の多くはディズニーランドに行きますよね。それと同じ感覚で、劇場に来てくれるためにはどうしたらいいか、ということを考えているので、既存の演劇ファンを取り込もうという感覚ではやっていません。新規のお客さんを開拓し、もっとたくさんの人に舞台に触れてもらいたいと考えています。
-そもそも、2.5次元の若いお客さんは、2.5次元の何に引かれているのでしょうか。
どの2.5次元作品においてもお客さまの大半は原作ファンが多いと思います。なので、2次元の原作が持つ世界観が、3次元の舞台上で再現されていることにまず一番引かれているんだと思います。ただ、最近では、2.5次元の中でもスター的な俳優も出てきていますし、乃木坂46が『セーラームーン』を演じるというように、役者のファンから2.5次元の舞台に入るお客さまも増えていますね。
-ここからは、演劇プロデューサーとしてお話をお聞かせください。松田さんは、2.5次元を代表する作品として知られるミュージカル『テニスの王子様』(以下、「テニミュ」)をはじめ、数々の大ヒット作をプロデュースされ、2.5次元の先駆者として業界をけん引する存在となっています。「テニミュ」はどういった発想からスタートしたのですか。
それ以前から、漫画やアニメは舞台との親和性があるということは感じていたのですが、(「テニミュ」初演)当時、『テニスの王子様』は原作の人気が高く、アニメ化もされていて、これを男の役者だけでできたら面白いなと思ったのが最初の発想でした。当時は単純に、自分がやる舞台化の題材を探していて、何か面白いものをと考えていたら漫画原作があったという感じです。
-なるほど。では、作品を作っていく上で、どのようなことを意識していらっしゃるんですか。
正解は常に原作にあると思っているので、舞台にするために原作を無理やり歪めるのはよくないと思っています。でも、それはメンタル的なものなので伝わりにくいと思うんです。だから、僕がいつもまずこだわるのは役者を使ったチラシなどのビジュアルです。原作ファンが、「自分の大切な漫画を舞台・ミュージカルにするのはやめて」って思うのは当然の心理。だからこそ、僕らがビジュアルを出したときに、その世界観がきちんと再現されていると思ってもらいたいんです。そうすれば、少しは安心できるでしょうし、見てみようかなと思ってもらえる。もちろん、中身も、演出家と話し合いますし、舞台化するにあたって原作の何を捨てるか、大切にするのは何かなどじっくり判断しながら丁寧に作っていきます。
-松田さんがプロデュースをされているミュージカル『刀剣乱舞』は、1部をミュージカル、2部をライブという構成で話題になりました。最近では、ライブを行う公演が増えたり、役者がステージを降りて歌って踊ったりと、より楽しむことに特化したステージが多くなったと感じています。そもそも、松田さんがこういった「楽しむためのステージ」を作ろうと思われたのは、どんなお考えがあったのですか。
あらゆるエンターテインメントの中において、演劇が勝っているものは生(LIVE)であるということだと思うので、生の特性はなるべく生かしたほうがいいと思っています。その生を実感するために、お客さまにも舞台に参加してもらう。でも、実際にはお客さまに舞台に上がってもらうことは難しいので、役者が舞台から降りていくんです。役者が横を通ったときに、風が起きる。この感覚は生だからこその体験です。例えば、役者と目が合うというだけでもテンションが上がりますよね。一種の魔法です。もちろん、それが全てだとは思いませんが、僕は使えるものはなんでも使った方がいいと思っています。
-今、2.5次元作品は海外公演も積極的に行われていますが、海外公演を行うことへの思いは?
2.5次元をスタートしたときに、日本にはこんなに素晴らしいコンテンツがあると改めて気付き、これは日本だけでなく世界中に輸出できると思いました。日本のオリジナル作品を海外で公演するのはなかなか難しいと思いますが、2.5次元の場合、題材やキャラクターが世界中ですでに知られているので勝てる可能性がある。逆にいうと、舞台において海外にいけるのは2.5しかないと思うんです。
-2020年のオリンピックに向けて、国内での展開はどうお考えですか?
IR(統合型リゾート)が決まったあかつきには、ホテルができて、当然シアターもできると思います。そうなったとき、日本のオリジナルである2.5次元はそこでやっているべきコンテンツだと思います。海外から来たお客さまが、ナイトライフで見るのは、日本のコンテンツであってほしい。そのために、オリンピックに向けてインバウンドを頑張っていきたいという部分はもちろん、あります。それから一方で、オリンピックに参加できないかと考えています。海外の人が知っている日本のスターって、ナルトであり、キティーちゃんであり、ポケモンじゃないかなと思うんです。だからこそ、僕たちがやっていることが向いているんです。
-最後に、これから思い描いていることや目標を教えてください。
今、2.5次元はブームだと言われていますが、実際にはまだまだ知られていない。まだ体験していない人はいっぱいいるので、もっと頑張って啓蒙して、みんなに体験してほしいと思っています。そして、海外のお客さまに日本の素晴らしいコンテンツをお届けしたい。そういう意味でも、2.5次元が一つのジャンルとなって、スタンダードになればいいなと思います。
(取材・文/嶋田真己)
松田誠
一般社団法人 日本2.5次元ミュージカル代表理事
株式会社ネルケプランニング 代表取締役会長
演劇プロデューサー
舞台制作会社、ネルケプランニングを設立。現在、年間数十タイトルにも及ぶ数多くの舞台作品のプロデュースや制作を行う。また演劇以外にも多方面で新しいエンターテインメントを仕掛けている、日本のステージコンテンツビジネスのトップランナーの一人である。代表作は、『ロミオ&ジュリエット』、『ロックオペラ モーツァルト』他。2003年よりミュージカル『テニスの王子様』シリーズのプロデュースをはじめ、ミュージカル「黒執事」、ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」、ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」、ミュージカル『刀剣乱舞』などの作品を手掛ける、2.5次元ミュージカルの先駆者。
一般社団法人 日本2.5次元ミュージカル協会
https://www.j25musical.jp/
2.5Dオフィシャル番組「What‘s 2.5D?」
毎月25日「2.5Dの日」にGYAO!にて無料配信中
https://gyao.yahoo.co.jp/p/11251/v00001/