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「赤山の最期の場面は、鈴木亮平くんに『これから1年間頑張って』という気持ちを込めました」沢村一樹(赤山靭負)【「西郷どん」インタビュー】

 かねて折り合いが悪かった島津斉興(鹿賀丈史)と嫡男・斉彬(渡辺謙)親子の対立が、薩摩藩主の座を巡るお家騒動に発展。ついに斉興が家中の斉彬派を粛清する“お由羅騒動”が勃発した。この事件に巻き込まれたのが、吉之助(鈴木亮平)が師と仰ぐ赤山靭負(ゆきえ)。斉彬派の一員として切腹を命じられ、無念の死を遂げることとなった。演じたのは、物語の舞台でもある鹿児島出身の沢村一樹。撮影の舞台裏から鈴木とのエピソード、赤山の最期に込めた思いなどを語ってくれた。

赤山靭負役の沢村一樹

-赤山靭負をどのような人物と考えて演じましたか。

 赤山靭負という人物については知識が全くなかったのですが、とてもいい役を頂きました。今回は、ほんの一箸かもしれませんが、西郷隆盛という人を作る礎となる人物でありたいと思いながら演じました。当時の鹿児島は、“男とはこうあるべき”というものがはっきりした非常に厳しい藩。赤山はその中でも新しい考えを持った柔軟な人物で、教育を通じて世の中にはいろいろな人がいることを教えた。それが、少なからず後の西郷に影響を与えたのではないでしょうか。

-地元の鹿児島ロケから撮影が始まったそうですが、感想はいかがでしたか。

 実は「『西郷どん』に出たい」とずっと言っていたんです。それがかなった上に、そこに住んでいるという設定で、学校の修学旅行や社会科見学でしか行ったことのない武家屋敷の中でお芝居ができたので、楽しかったです。

-鹿児島ロケでの鈴木亮平さんの様子は?

 いつもの大河より1カ月半ほど早く、真夏の鹿児島でクランクインしたのですが、鈴木くんが夏の暑さに負けないぐらい熱い芝居を見せてくれました。愚痴もこぼさずにやっているその姿を見たら、この1年は大丈夫だなという気持ちになりました。

-撮影が始まる前には鈴木さんに鹿児島を案内したそうですね。

 西郷さんが西南戦争でたどったルートを車で回り、最後に鹿児島に行くという話だったので、僕も日程を合わせて地元の友達と一緒に食事をしました。彼は大学で外国語を学んでいたので、耳がすごくいい。だから、僕らが話している生の鹿児島弁を聞けば、糧になるだろうと思って。翌日は朝から史跡巡りをしたそうですが、僕の友人のつてでいろいろな方を紹介してもらったらしく、いい時間を過ごせたのではないでしょうか。

-鈴木さんの鹿児島弁はいかがでしょうか。

 ポイントをつかむのがすごく上手です。鹿児島で一緒に食事をした時から、友人たちの言葉に注意深く耳を傾けていました。“かわいい女の子”という意味の“おかしもぜ”という言葉があるのですが、それをマスターしようと、何回も繰り返していました。きっと、その言葉に何かをつかんだのでしょう。でも本当に努力家で、先日、1カ月以上ぶりに会って感情を込めた長いシーンのリハーサルをやったときには、もう完璧でした。

-西郷を始め、鹿児島は幕末に活躍した人物を数多く輩出しましたが、倒幕の機運が高まるような気風がもともとあったのでしょうか。

 当時の鹿児島は、中央から遠かったことがメリットになりました。劇中にも出てきますが、目を付けられにくいので、密貿易でお金を稼ぐなどいろいろなことができた。加えて、南方との貿易の窓口でもあったそうです。だから、新しいものが次々と海外から入ってきて、さまざまなノウハウを持っていた。そこには、思想なども含まれていたに違いありません。また当時、各藩の武士の数は人口の5パーセントでしたが、鹿児島には30パーセントもいたそうです。多くは農業をやりながらの貧乏侍ですが。そういうところから、いつか天下に対して行動を起こそうという気性が長い時間をかけて養われ、あの時代に活躍する人たちが生まれたのではないでしょうか。

-島津斉彬役の渡辺謙さんと一緒の場面も多かったですが、共演した感想は?

 やっぱりすごいと思いました。僕だったら「時代劇でこういう動きをしてはいけない」、「当時の侍はこういうことはやらなかった」と思ってしまうようなときでも、謙さんは何か思い付くと、誰も考えないような小道具を「持ってきて」と頼んだりするんです。その小道具の使い方もまた見事で…。驚きました。1年間、大河の主役を張った経験と、世界に向けて日本の侍の生きざまを発信している中から生まれた自信のようなものが、背中にドンとあるのが見えた気がしました。

-“お由羅騒動”で命を落とした赤山にとって、西郷や大久保はどんな存在だったのでしょうか。

 一筋の光みたいな存在だと思います。赤山は無念の思いを抱えたままこの世を去ることになりましたが、西郷や大久保がいたおかげで、未練なく思いを託すことができたのではないでしょうか。

-赤山の最期の場面は、どのようなお気持ちで臨まれましたか。

 夏の暑い日で、汗がダラダラ流れるような状況でしたが、その汗がとても心地よく、逆に集中できました。暑くて良かったと思うぐらいで。撮影中は、赤山の死を知った西郷や教え子たちが「何かしなければ」という気になるように、と考えながら演じていました。そこには、沢村一樹として、鈴木亮平くんに対して「これから1年間頑張って」という気持ちも込めました。

-ここまで赤山を演じてきた感想は?

 この役が決まったとき、本当に良かったと思いました。それは、先ほども言った通り、鈴木くんに鹿児島というものを教えられるし、逆に向こうも教えてほしいだろうから、お互いにいい関係を築くことができると考えたからです。だから、スタート時点で鹿児島出身の僕がこの役をやるのは、きっと意味があるに違いないと。自動車が燃料を最も消費するのは、エンジンをかける時。そういう意味では、鹿児島からスタートするこの物語のエンジンの一端を担えて、本当に良かったです。

-西郷役の鈴木さんと大久保役の瑛太さんに何か言葉を贈るとしたら?

 「楽しみにしています」ですね。これから大変な思いもするでしょうけど、1年間やり通した後、明治という時代と薩摩という場所に触れたことで自分の中で何か変化があったのか。それを1年後に聞くのが楽しみです。

(取材・文/井上健一)

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