2014年公開の映画『渇き。』で鮮烈な女優デビューを飾り、その後も数々の映画でヒロインを務め、同世代女性のアイコンとして人気の小松菜奈。場数を踏んで実力も蓄え、各映画賞で新人賞に輝くまでに成長した彼女が今回挑戦するのは、コメディタッチのミステリードラマ「スリル!~赤の章~警視庁庶務係ヒトミの事件簿」だ。警視庁庶務係の瞳(小松)が、刑事の外河(小出恵介)や腹黒弁護士の白井(山本耕史)を利用し、連続殺傷事件の真相に迫るというもの。さまざまな役柄で観客を魅了する小松が、デビュー作から学んだ演じる極意を語った。
-これまで映画の世界で活躍されてきましたが、地上波の連続テレビドラマ初出演にして初主演を飾った感想は?
素直にうれしかったです。刑事ドラマ特有の、事件について説明する長ぜりふではかなり苦戦していますが、ドラマにはドラマ、映画には映画の良さがあるので、周りの人たちに助けてもらいながら、日々伸び伸びと楽しんでやっています。
-「ドラマの良さ」をどの辺りで感じていますか。
初めに「瞳は真面目で無表情」と言われましたが、いざ撮影が始まると、監督から最初のシーンで「ダンスしながら廊下を歩いて」と指示されて、「えっ、そんな感じなんですか?」って(笑)。それ以降、日に日にぶっ飛んだキャラになっていくことにびっくりしましたが、(映画は最初に決めたキャラを変えられないけど、ドラマは)最初に決めたことを気にしないで撮影のたびに変化していいところです。
-4人の監督がおのおの担当するという珍しいスタイルについてはどうでしたか。
監督によって演出が全然違うので、1話ごとに違う作品の現場にいる感じがして、すごく難しいです。それに、西と東で笑いのセンスが違うみたいで、2話の大阪出身の滝本憲吾監督の前で「1話(河合勇人監督・愛知出身)ではこんなふうにやっていました」と披露しても、『ちょっと違うかな』って言われたり…。でも、監督によって面白さが違うというのは楽しいです。
-庶務係としての瞳と、刑事さながらに事件を解決する瞳。一人二役の様相を呈していますが、演じる上でのこだわりはありますか。
庶務係の時は、真面目で(領収書の不正を見逃さない)キレキレな面を持ち、事件現場に出るために他人を利用するずる賢さもあります。でも基本は、好奇心旺盛で無邪気で自由な性格だから、(大好きな)事件現場では生き生きとはじけています。そういうテンションの違いを見せるようにしていますし、そこは監督が変わってもぶれないようにしています。
-芸達者な山本耕史さんとの初共演はいかがでしたか。
山本さんは頭がキレて反応が早く、言葉のチョイスが素晴らしくて勉強になります。今までアドリブが入れられないような台本を基にやってきたので、スタッフから「アドリブが多いから頑張って」と言われ、実際にファーストカットからアドリブがあった時は戸惑いましたが、これも勉強と思いながら臨んでいます。
-等身大の女子高生からキャバクラ嬢、謎の失踪を遂げた少女、隠れキリシタン…。作品ごとに違うキャラクターを演じ分けていますが、役作りで心掛けていることは何でしょうか。
女優としての最初が中島哲也監督の『渇き。』の(裏表がある)加奈子役だったので、それ以降はどんな役をやっても「(加奈子みたいに)裏があるんじゃないか」と言われることが多くて、どうやったらそこから抜け出せるのか…と悩みました。その中で、役を掘り下げることは必要だけど、自分だけで作りこみ過ぎず、現場で監督から言われたことにも対応できる柔軟性を持つことが大切だと思うようになりました。
-天使と悪魔の二面性を持つ加奈子役は確かに衝撃的でしたが、最初が振り切った役だったことで度胸がつき、女優としての自信につながったのでは。
中島監督から「今の演じ方は飽きたから、次は自分で考えてみて」と言われ、自分なりに自由な演技をしても、「それ、全然面白くない」って言われると、「面白いって何ですか!?」って訳が分からなくなることもありました。けれどばかになっていろいろ試すことで、違うことをやることが大事だと気付きました。最初はきれいに映りたいと思ったりもしたけど、今はどう思われてもいいです(笑)。そのベースがあるので、他の現場で監督から何かリクエストされることに、苦労はあるけど抵抗はありません。最初に良い環境で育ててもらって良かったです。
(取材・文/錦怜那)