【映画コラム】二コール・キッドマンの独壇場 『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』

2014年10月18日 / 18:23

(C) 2014 STONE ANGELS SAS

 ハリウッドの売れっ子女優からモナコ公妃となったグレース・ケリー。その、一見華やかに見えるシンデレラストーリーの裏側に迫った『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』が18日から公開された。二コール・キッドマンがグレースを演じている。

 本作は、グレースの純粋な伝記映画ではない。彼女の心の葛藤や、彼女が巻き込まれるモナコとフランスとの間に生じた政争の様子を、フィクションと想像を交えながら描いていく。

 前半は、公妃としての生活になじめず、夫との仲も冷え切り、苦悩を深めるグレース。そんな中、アルフレド・ヒチコック監督から次回作『マーニー』のヒロイン役を直々にオファーされ、女優復帰に心が揺れる様子が描かれる。ここでのキッドマンは、見た目もグレースに似せてはいないし、精彩を欠くとすら感じさせる。ところがこれこそが、後半の演技に向けて彼女が敷いた伏線だったのだ。

 後半は、自国の危機を見かねたグレースが、“公妃を演じ切る”ことを決意し、タフな女性へと変身する姿が描かれる。ここからは、アップの多用、クライマックスのスピーチなど、まさにキッドマンの独壇場となり、いつの間にか“グレース・ケリーの映画”ではなく、“二コール・キッドマンの映画”へと変化していることに気付く。

 本作を見ると、伝説の女優すら自分の中に取り込んでしまうキッドマンの力量の大きさにあらためて驚かされることになる。そんな彼女が身を包む1960年代のゴージャスなファッションも見ものだ。

 さて、実際のグレースは、この後、女優復帰はかなわず、夫にも裏切られ、“城に幽閉された公妃”と呼ばれた。そして、82年に謎の自動車事故で52年の波乱に満ちた生涯を閉じた。生前「私の人生はおとぎ話だと言われるけれど、それ自体がおとぎ話だわ」と語っていたグレース。本作には、もしグレースが『マーニー』(64)に出ていたら…と思わせる切なさも含まれている。(田中雄二)


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