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『徒花 ADABANA』(10月18日公開)
舞台は、最新技術を用いた延命治療が国家によって推進されるようになった近未来。裕福な家庭で育った新次(井浦新)は妻との間に娘も生まれ理想的な家庭を築いていたが、重い病に侵され病院で療養している。
手術を控えて不安にさいなまれた新次は、医師(永瀬正敏)と臨床心理士のまほろ(水原希子)の提案で自身の過去についての記憶をたどり始め、海辺で知りあった謎の女性(三浦透子)や、幼い頃に母からかけられた言葉を思い出していく。
記憶がよみがえったことでかえって不安を募らせた新次は、“それ”に会わせてほしいと懇願する。“それ”とは、上流階級の人間が病に侵された際に身代わりとして提供される、“全く同じ見た目のもう1人の自分”=自分の細胞から作られたクローンのことであった。
長編デビュー作『赤い雪 Red Snow』(19)で国内外から高く評価された甲斐さやか監督が、20年以上の歳月をかけて構想し脚本を執筆して撮り上げた日仏合作映画。編集を『落下の解剖学』(23)でアカデミー編集賞にノミネートされたロラン・セネシャルと、『ドライブ・マイ・カー』(21)の山崎梓が共同で担当している。
多少観念的で難解なところもあるが、SF的な要素を用い、クローンを「咲いても実を結ばない徒花」や鏡像に例えて、死とは何か、アイデンティーとは何かを静かに問い掛ける問題作。井浦の一人二役が見事だ。
(田中雄二)