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【週末映画コラム】ティモシー・シャラメが魅力的なウォンカ像を構築した『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』/妊娠や子育てについて考えさせる『ポッド・ジェネレーション』

『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』(12月8日公開)

(C)2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

 人々を幸せにする「魔法のチョコレート」を作り出すチョコレート職人のウィリー・ウォンカ(ティモシー・シャラメ)は、亡き母(サリー・ホーキンス)と約束した世界一のチョコレート店を開くという夢をかなえるため、一流のチョコレート職人が集まる町へやってくる。

 ウォンカのチョコレートはまたたく間に評判となるが、町を牛耳る「チョコレート組合」から、その才能をねたまれ邪魔をされる。さらに、ある因縁からウォンカをつけ狙うウンパルンパ(ヒュー・グラント)というオレンジ色の謎の小さな紳士も現れ、事態はますます面倒なことに。それでもウォンカは町にチョコレート店を開くために奮闘する。

 ティム・バートン監督、ジョニー・デップ主演の『チャーリーとチョコレート工場』(05)に登場した工場長ウィリー・ウォンカの始まりの物語を描くファンタジーミュージカル。オリビア・コールマン、ローワン・アトキンソンら、演技派俳優が共演。監督は「パディントン」シリーズのポール・キング。

 原作のロアルド・ダール、監督のキングをはじめ、グラント、ホーキンス、コールマン、アトキンソンは皆イギリス人。それ故、この映画の後日談に当たるアメリカ人のバートンやデップを中心に作られた『チャーリーとチョコレート工場』よりも、イギリスらしさを色濃く感じさせる。

 どちらかといえば、雰囲気はイギリス製ミュージカルの『オリバー!』(68)や、『チャーリーとチョコレート工場』の前に作られた『夢のチョコレート工場』(71)の方が近いかもしれない。

 何しろ主題歌「ピュア・イマジネーション」のオリジナルは、『夢のチョコレート工場』で元祖ウォンカ役のジーン・ワイルダーが歌ったものだ。ただし、色遣いの面白さ、鮮やかさは『チャーリーとチョコレート工場』に通じるものがある。

 シャラメが魅力的なウォンカ像を構築。グラントのウンパルンパも傑作。ミュージカル映画としても楽しめる。そして、この映画のラストを見ると、続けて『チャーリーとチョコレート工場』や『夢のチョコレート工場』が見たくなる。

『ポッド・ジェネレーション』(12月1日公開)

(C)2023 YZE – SCOPE PICTURES – POD GENERATION

 AIが発達した近未来のニューヨーク。ハイテク企業で働くレイチェル(エミリア・クラーク)は、大企業のペガサス社が提案する、出産までの10カ月間、持ち運び可能な卵型ポッドで赤ちゃんを育てるという、新しい妊娠方法に心が動く。

 だが、植物学者として自然界の多様性を守るべく日々奮闘しているパートナーのアルビー(キウェテル・イジョフォー)は、自然な形での妊娠を望んでいた。

 やがてペガサス社の子宮センターを見学したレイチェルは、ポッド妊娠への思いを募らせ、彼女の気持ちを知ったアルビーも不承不承同意する。2人はポッド妊娠ならではの不安や困難に直面しながら、手を取り合って進んでいくが…。

 卵型のポッドで赤ちゃんを育てるという、新時代の妊娠と向き合うカップルを描いたSFコメディー。主演のクラークが製作総指揮にも名を連ね、ソフィー・バーセスが監督を務めた。ベルギー、仏、英の合作。

 SFの形を借りて、ユーモアを交えながら、人間が卵(ポッド)で赤ん坊を育てるという皮肉を描き、AI音声アシスタントが家での生活の全てをサポートし、セラピーも行うような世界は果たして幸せなのかという疑問を提示する。最初は懐疑的だったアルビーが、レイチェルよりもポッドに絆を感じるようになるという図も面白い。

 妊娠や子育てについて、男女の立場や役割について、あるいはAIとの関わりについてなど、いろいろなことを考えさせられる、なかなかの秀作。

(田中雄二)