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『ザ・メニュー』(11月18日公開)
有名シェフのジュリアン・スローヴィク(レイフ・ファインズ)が極上の料理をふるまい、なかなか予約が取れないことで知られる孤島のレストラン・ホーソン。
そこに、料理マニアのタイラー(ニコラス・ホルト)とその恋人の代理のマーゴ(アニャ・テイラー・ジョイ)、料理評論家(ジャネット・マクティア)とお付きの編集者(ポール・アデルスタイン)、俳優(ジョン・レグイザモ)とアシスタント(エイミー・カレロ)、裕福な夫婦(リード・バーニー、ジュディス・ライト)、そしてレストランのオーナーの仲間であるIT長者(ロブ・ヤン、マーク・セント・シア、アルトゥーロ・カストロ)がやって来た。
レストランのメニューには、それぞれ想定外のサプライズが添えられていたが、マーゴは何ともいえない違和感を覚える。そして、彼女の発言をきっかけにレストラン内は不穏な空気に包まれ、メニューの裏に隠された秘密や、ミステリアスなスローヴィクの正体が徐々に明らかになっていく。
マーク・マイロッドが監督し、アダム・マッケイがプロデューサーを務めたこの映画は、上流意識が持つ嫌らしさを告発した、皮肉の効いたブラックコメディー。見ていて何とも嫌な気分にさせられるのだが、なぜか目が離せなくなる。
設定は、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』をほうふつとさせ、その不条理な雰囲気は、テレビの「ヒッチコック劇場」に出てきそうな話だと思ったら、マッケイは、ヒッチコックの『ハリーの災難』(55)を“心の名画”だと評しているし、マイロッドは、不穏な群像劇であるロバート・アルトマンの『ゴスフォード・パーク』(01)を参考にしたと語っていた。そうした2人の好みが、この映画の面白さに反映されているといってもいいだろう。
ファインズはじめ、多彩な俳優たちによるアンサンブルも見もの。特に唯一の“部外者”でスローヴィクと対峙(たいじ)するマーゴを演じたテイラー・ジョイがいい。最近の彼女は、『ラストナイト・イン・ソーホー』(21)『アムステルダム』(22)、そしてこの映画と、進境著しいものがある。
(田中雄二)