事実と創作の間とは…『オードリー・ヘプバーン』『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』【映画コラム】

2022年5月5日 / 07:00

『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』(5月6日公開)

9232-2437 Quebec Inc – Parallel Films (Salinger) Dac (C) 2020 All rights reserved.

 1990年代のニューヨーク。作家を夢見るジョアンナ(マーガレット・クアリー)は、老舗出版エージェンシーで、有名作家J・D・サリンジャー担当のマーガレット(シガニー・ウィーバー)のアシスタントとして働き始める。

 ジョアンナの仕事は、世界中から大量に届くサリンジャーへの熱烈なファンレターの対応処理。それは、簡単な定型文を返信するだけの作業だったが、ジョアンナは、心に訴えかける手紙を読むうち、自分の文章で返信を出し始める。そんなある日、サリンジャー本人から一本の電話が入る。

 ジョアンナ・ラコフの自叙伝を映画化。監督は『グッド・ライ~いちばん優しい嘘~』(14)のフィリップ・ファラルドー。

 大まかにいえば、都会で「特別な存在」になりたいと願うジョアンナの自分探し、というよくある話だが、そこにウィーバーが好演する上司とサリンジャーを絡ませることで重層的なストーリー展開が生まれた。

 サリンジャーの小説を全く読んだことがないジョアンナが、彼と関わることで変化していく様子が面白いし、彼の存在を通して出版やエージェントの裏側を知ることもできる。つまり、この映画の裏の主役はサリンジャーなのだ。だからタイトルも「My Salinger Year」となる。

 サリンジャーは、突然作家活動を辞めて隠居したことで伝説となったユニークな存在。それ故、創造が入る余地が生まれ、一種のアイコンとして映画や小説にも登場する。 

 例えば、サリンジャーに会いに行く高校生を描いた『ライ麦畑で出会ったら』(15)があるし、『フィールド・オブ・ドリームス』(89)の原作であるW・P・キンセラの『シューレス・ジョー』では、主人公が会いに行く作家は映画とは違いサリンジャーなのだ。

 また、『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』(17)という、彼自身の半生を描いた映画もある。

 この映画は、それらとは異なり、隠居して人との交わりを絶ったとされるサリンジャーが、実はエージェントと密に連絡を取り、出版について交渉する様子が描かれているので、とても興味深く映った。

(田中雄二)

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