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地元密着型のものづくり映画『あしやのきゅうしょく』『吟ずる者たち』【映画コラム】

『あしやのきゅうしょく』(3月4日公開)

(C)2022「あしやのきゅうしょく」製作委員会

 自校式給食や栄養士によるオリジナルメニューの展開といった学校給食への取り組みが注目されている兵庫県芦屋市を舞台に、新米栄養士の奮闘を描く。監督は芦屋市出身で、『ママ、ごはんまだ?』(16)の白羽弥仁。芦屋市の市政80年記念映画でもある。

 芦屋の小学校に赴任した新人栄養士・野々村菜々(松田るか)は、退任するベテラン栄養士(秋野暢子)から給食のイロハを引き継ぎ、調理師たちと協力して給食の献立を作っていく。予算や子どものアレルギーなど、さまざまな問題に対処しながら、おいしい給食を食べてもらおうと奮闘する菜々だったが…。

 この映画のキーワードは「食べることは生きること」。給食が作られるに当たって、栄養士や調理師たちが、いかに奮闘努力をしているのかを知らしめる効果がある。その意味では、映画は架空の話だが、ドキュメンタリー的な要素もある。

 そして、こうした地元密着型の映画で出演者が苦労するのは言葉の問題だ。主演の松田は沖縄出身だけに、インタビューで、「確かに言葉の違いは大きかったです。スムーズに出てこなければいけないですし、少しでも言葉を間違えたら一気に説得力がなくなってしまうのでなかなか大変でした。白羽監督が芦屋のご出身なので、こまめに確認をし合いながら、進めていきました。完成した映画を見て、言葉に関しては、すごく下手ではなかったかなと思いました」と明かしている。

 その半面、実際に芦屋の小学校に通う子どもたちと“共演”したことで、彼らから地元に関するいろいろなことを聞き、関西弁も学ばせてもらったという。こうしたことも地元密着型の映画の利点であろう。

 さて、最近は、この映画や、広島の酒造りを題材にした『吟ずる者たち』など、地方自治体のPRを兼ねて製作される映画が増えてきた。また、給食映画といえば、市原隼人主演の『劇場版 おいしい給食』シリーズもある。こちらは給食を食べる側から描いたコメディーだが、給食つながりで見比べてみるのも一興だ。

『吟ずる者たち』(3月25日公開)

(C)2021ヴァンブック

 日本酒造りが盛んな広島の町で、日本で初めて吟醸酒を造った三浦仙三郎の思いに触発され、酒造りの道を歩み始み始めた女性の姿を、現代と明治時代を交差させながら描く。監督の油谷誠至と脚本の仁瀬由深は広島県竹原市出身だ。 

 東京で夢破れ、故郷の広島に帰ってきた永峰明日香(比嘉愛未)。明治時代の三浦仙三郎(中村俊介)の杜氏の末裔(まつえい)が継いだ酒蔵で育った彼女だが、養女であることから、家業からは距離を置いていた。だが、目標を見失った明日香は、病に倒れた父(大和田獏)が家宝とする仙三郎の手記を目にする。

 そこには、新米酒造家だった仙三郎が、醸造中に中の酒が腐る「腐造」に何度も見舞われながら、安定した日本酒醸造技術の確立に研さんを重ね、ついに軟水による低温醸造法を導き出すまでが記されていた。

 この映画のキーワードは、仙三郎がモットーとした「100回試して1000回改める」という意味の「百試千改」。映画を見ると、いかに酒造りに手間がかかり、しかも繊細な作業なのかがよく分かり、今後、日本酒を飲むときは、心して飲まなければ…という気にさせられた。

 また、昨年、広島を訪れた際、街のあちこちに、この映画と、同じく広島を舞台にした『孤狼の血 LEVEL2』のポスターが貼られているのを目にし、改めて“地元映画”の価値について考えさせられたことを思い出した。

(田中雄二)