【映画コラム】ユニークなコメディー『引っ越し大名!』と『やっぱり契約破棄していいですか!?』

2019年9月2日 / 16:50

 続いて、いかにもイギリス映画らしいブラックユーモアを感じさせる『やっぱり契約破棄していいですか!?』。

(C)2018 GUILD OF ASSASSINS LTD

 売れない作家のウィリアム(アナイリン・バーナード)は、殺し屋のレスリー(トム・ウィルキンソン)と、1週間以内に暗殺してもらう契約を結ぶ。ところがウィリアムの前にキュートな女性エリー(フレイア・メイバー)が現れて…。

  本作の、自殺志願者が美女と出会って生きたくなる、という皮肉な設定は、例えば、フィリップ・ド・ブロカ監督の『カトマンズの男』(65)、山田洋次監督の『九ちゃんのでっかい夢』(67)、アキ・カウリスマキ監督の『コントラクト・キラー』(90)、マイク・ファン・ディム監督の『素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店』(15)などと同じであり、橋の上で自殺志願者が他者と出会うという出だしは古典落語の「文七元結」にも通じるものがあるなど、決して珍しいものではない。いわば、ブラックユーモアを含んだシチュエーションコメディーとしては一つの典型ともいえる。

  ただ、この映画の新味は“殺す側”にもドラマを持たせて二重構造とした点。ウィルキンソンが暗殺件数のノルマ達成に悩む、殺し屋なのに愛すべきおっさんを巧みに演じて映画に説得力を与えている。監督・脚本のトム・エドモンズは、この映画が長編デビュー作とのことだが、今後に期待を抱かせるような、小品の佳作に仕上げている。(田中雄二)

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