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【芸能コラム】クライマックス目前!深みを増した俳優たちの演技に注目! 「おんな城主 直虎」

井伊直虎(柴咲コウ=左)と井伊万千代(菅田将暉)

 11月に入り、いよいよ終盤が近づいてきた「おんな城主 直虎」。全国の視聴者は、徐々に近づく井伊谷の人々との別れを惜しみつつ、物語を楽しんでいるところではないだろうか。だが、開始から10カ月を経過したドラマには、また新たな見どころも生まれている。それは、長期にわたって1人の人物を演じてきた俳優たちの深みを増した演技の面白さだ。

 1人の人物を長く演じることは、俳優にとっては苦労も大きいが、同時に役に対する理解が深まるという長所もある。これは、撮影期間が短い映画や、10話前後で完結するドラマにはない特徴だ。その魅力については、複数の出演者が当サイトのインタビューで語っているが、松下常慶役の和田正人の言葉を借りると、次のようになる。

 「演じていると、その時は分からなかったけれど、後になって気が付くことが山のようにあるんです。自分1人で考えても見付からなかった答えが、他の人の言葉から生まれたり…」。

 こうして時間を積み重ねることによって、演技が深みを増してゆく。それを如実に感じたのが、第43回「恩賞の彼方に」(10月29日放送)だ。この回は、長篠の戦い後の徳川家内部の論功行賞を巡る万千代(菅田将暉)の活躍や、井伊谷の山崩れを防ごうと土砂止めの普請に尽力する直虎(柴咲コウ)の姿が物語の中心となった。派手な合戦が繰り広げられた前回と比べると、やや地味な内容といえるが、それが逆に、俳優たちの名演をじっくりと味わわせてくれる結果となった。

 中でも印象的だったのは、直虎、南渓和尚(小林薫)、奥山六左衛門(田中美央)の3人が、常慶から送られてきた土砂止めの指図書を確認する場面だ。

 実はこの指図書、土砂止めの方法に詳しい常慶が万千代に指示して絵を描かせたもの。一目でそのことに気付いた六左衛門は「さすが虎松(=万千代)様!」と喜ぶが、それを聞いた直虎は「これは虎松が描いたのか?」と驚きを隠せない。そして、その様子を見た南渓和尚は「よう知らぬ」ととぼけてみせる…。

 この場面の伏線として、以前、直虎が万千代の手柄を潰したという経緯がある。それを念頭に、今回もまた…? と成り行きを案じて、南渓和尚ははぐらかそうとしたのだ。だが、その様子に「何か裏があるのでは?」と疑いのまなざしを向ける直虎。そして、互いの腹の内を探り合う2人の様子に気付かない六左衛門。言葉にならない三者の感情が微妙な空気の中で絡み合い、笑いを誘う名場面となった。この息の合った芝居は、これまで長く演じてきた3人だからこそ生まれたものだと言えるだろう。

 他にもこの回は、土砂止めの普請を実施するよう言葉巧みに近藤康用(橋本じゅん)を説き伏せる直虎や、植林の場面における直虎と百姓の甚兵衛(山本學)との味わい深いやり取りなど、長期の作品ならではと思える印象的な芝居が満載だった。

 回が進むにつれ、深みを増していく出演者たちの演技と共に快調な展開を見せる物語。ある意味、最終回が見えてきた今が、作品にとって最も充実した時期と言えるのかもしれない。残り6回、俳優たちのさらなる名演に期待しつつ、今後の行方を見守っていきたい。(井上健一)