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YouTubeもNetflixもない時代、人々を夢中にさせた“物語り”の芸があった——。“たまたま”講談界に入った四代目・玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい)が、知られざる一門の歴史物語をたどります。

私の少年時代を振り返れば、知らず知らずのうちに菅原道真公ゆかりの地に身を置いておりました。通った学校も、道明寺と名の付く小学校と中学校。それから大人になり、永職会40周年プロジェクトを通じて、道明寺天満宮で神道講釈を勤めさせていただくこととなりました。これぞ、不思議なご縁でございます。私の人生、たまたまの奇跡が数珠繋ぎに連なっているようでございます。
わが玉田家には、玉田永教の『菅家世系録』、そして玉田玉鱗(後の三代目玉秀斎)の講談速記本『菅原天神記』『天満宮霊験記』が伝わっております。
これらの記録を使って物語るのが道真公の神道講釈。
2025年の中秋の名月、月の冴え渡る道明寺天満宮。多くのご婦人がお越しになられた「お月見の宴」にて、一席申し上げることとなりました。
そもそも、道真公とお月様には深い関わりがございます。
道真公がまだ11歳のとき、「月夜見梅花」という漢詩を詠まれています。
月燿如晴雪(月の耀きは晴れたる雪の如し)
梅花似照星(梅花は照る星に似たり)
可憐金鏡転(憐れむべし金鏡の転ろきて)
庭上玉房馨(庭上に玉房の馨れるを)
これが道真公にとって、生涯初めての漢詩。
まさに大天才でございます。翻って、私が11歳のときを考えると、漢字一つもまともに書けなかった。あぁ、情けない。
そんな道真公を愛してやまない皆様を前に、まずは道真公のご先祖・野見宿禰(のみのすくね)の物語から説き起こしました。
お話は、野見宿禰と当麻蹴速(たいまのけはや)との角力(すもう)対決に遡ります。
強いのはどちらか、互いの力の限りを尽くした戦い。
軍配は野見宿禰に上がりました。これが相撲の始まりといわれています。
野見宿禰は当麻の土地(奈良県葛城市)を与えられ、時の帝にお仕えすることとなります。
当時、皇族が亡くなると殉死の風習がありましたが、「あまりに可哀そう」と、代わりに「土の人形(はにわ)」を入れることを提案します。
これにより、野見宿禰の家系は、土を扱う職として「土師(はじ)」という姓を賜りました。
そんな一族が住んでいたのが、奈良と大阪の府県境を挟んで隣り合う地域、他ならぬ「土師の里」(大阪府藤井寺市)。私が少年時代を過ごした土地だったのでございます。
少年時代、「ハジの里」を「恥の里」だと思い込んでいた私の方が、よっぽど恥でございました。無知とは恐ろしいものです。
やがて土師氏は、新たに賜った「菅原」の地を姓とし、平安遷都に伴い、西洞院高辻(京都府京都市下京区)に邸宅を構えます。
そこで産声を上げたのが菅原道真公でございます。
お生まれになる際、伊勢神宮外宮の渡会春彦(わたらいのはるひこ)に申子の祈祷(子授けの祈祷)を頼んだ縁で、春彦は道真公のおそばに仕えるようになりました。
この春彦、20才頃には白髪になっており、皆から「白太夫(しらたゆう)」と呼ばれていたそうです。
玉田家の本によれば、道真公には白太夫以外にも、島田、成田、前田、桜田、梅田、松田という「六田」の家が仕え、その末裔は「梅鉢紋(うめばちもん)」を掲げていることが多いと記されております。
それをお越しの皆さまにお伝えすると、南坊城(みなみぼうじょう)宮司から、「そんな事実はございません。講談師、見てきたような嘘をつく、ですよ」と訂正が入りました。
いえ、これがありがたい。訂正してくださる方がいてこそ、講談はかえって盛り上がるというものでございます。
さて、お話はさらに続きます。
道真公が5歳のときに読まれた有名な和歌。
うつくしや 紅の色なる 梅の花 あこが顔にも つけたくあるぞ
これに驚かれた仁明(にんみょう)天皇が、道真公に「爪紅の中啓(扇子)」をお与えになり、それが河内国道明寺に残っていると、これまた玉田家の本に書かれていました。
すると南坊城宮司、「その話をきっかけに徹底的に調べたんです。もしも残っていれば、ものすごい宝物ですが、どこをどう探しても出てきませんでした。記録にもございませんでした」。
そうなんです。
講談というものは、知的好奇心の扉の前までご案内するのが役目。
扉の向こうに隠された真実は、どうぞ皆様ご自身の手で、お確かめください。
さて、今回の道明寺天満宮における菅原道真公の神道講釈、まずはこれにて読み終わり。
続きはまたの機会のお楽しみ。
◆四代目・玉田玉秀斎
玉田家は幕末、京都を拠点に全国で活躍した神道講釈師・玉田永教の流れをくみ、三代目玉秀斎は『猿飛佐助』『真田十勇士』『菅原天神記』『安倍晴明伝』などを世に広め、明治大正期の若者に大きな影響を与えた。四代目玉秀斎はロータリー交換留学生としてスウェーデンに留学中、逆に日本に興味を持ち講談師に。英語講談や音楽コラボ講談、観光講談、ビッグイシュー講談など新作講談を多数公演。さらに文楽や吉本新喜劇、地域の伝統芸能とのコラボ公演も多い。京都講談復興のため、京都劇場で定期公演中。2024年3月三重大学大学院修士課程「忍者・忍術学コース」修了。2024年4月より和歌山大学大学院・観光学研究科後期博士課程にて研究中。NHK朝ドラ『ばけばけ』怪談ばなし指導(2025年秋~放送中)。FM大阪『天才的なバカになれ!』毎週日曜放送中。海外渡航歴は25カ国以上。京都検定2級。