【大河ドラマコラム】「青天を衝け」第三十九回「栄一と戦争」多様な人々の心情をすくい取った徳川慶喜の存在

2021年12月15日 / 16:46

 世の中には、目標に向かって突き進む栄一の生き方を尊敬し、憧れながらも、実際は惇忠や篤二のように苦しみ、悩み、立ち止まりながら人生を送る人の方が多いはずだ。

 だが、常に前向きに突っ走る栄一の視点だけでは、そういった人々の心情に目を向けることは難しい。それを補ったのが、波乱の前半生を過ごした後、すべてを抱え込んで静かに生きる慶喜の存在だ。

 例えるなら、栄一と慶喜の間に、さまざまな人の心情をすくい取るための網が張られた、とでもいった感じだろうか。それにより、「生き抜く」という本作の根底に流れるメッセージが、栄一だけでなく、より多くの人を包含したものであることが改めて裏付けられた。

 走り続ける栄一と、静かに生きる慶喜。対照的な2人の存在が、ドラマにより深い味わいをもたらし、魅力が何倍にも増していった。仮に栄一1人だったら、ここまで心を動かす物語になったかどうかは分からない。

 改めて、慶喜が本作に不可欠な「もう一人の主人公」であることを思い知らされた回だった。そして、それを実感させてくれた吉沢と草なぎの名演も忘れてはいけない。

 年齢を重ねながらも決して熱量の衰えない栄一と、年とともに枯れていく慶喜を表現する2人の対照的な演技は見事だ。

 放送開始からコロナ禍と向き合ってきたこの1年、私たちを魅了してきた「青天を衝け」も残り2回。「生き抜く」というメッセージを掲げてきた栄一と慶喜のドラマがどんな結末を迎えるのか、期待を込めて見守っていきたい。(井上健一)

渋沢篤二役の泉澤祐希

 

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