【大河ドラマコラム】「青天を衝け」第三十四回「栄一と伝説の商人」示唆に富む言葉の数々から浮かび上がる栄一が目指す社会の在り方

2021年11月10日 / 17:10

 「その人物1人が、商いのやり方や利益を独り占めするようなことがあってはならない。皆ででっかくなる」

 11月7日に放送されたNHKの大河ドラマ「青天を衝け」第三十四回「栄一と伝説の商人」。主人公・渋沢栄一(吉沢亮)は、日の出の勢いの三菱商会会頭・岩崎弥太郎(中村芝翫)に招かれ、宴席で初対面を果たす。

渋沢栄一役の吉沢亮(左)と岩崎弥太郎役の中村芝翫

 だが、事業の在り方に関する2人の意見は真っ向から対立。「事業は、1人の経済の才覚ある人物が、己の考えだけで動かしていくのが最善」と主張する岩崎に対して、栄一は冒頭に挙げた言葉で反論してみせた。

 栄一が目指す商売の在り方を端的に示すとともに、現代にも通じる名言といっていいのではないだろうか。本作ではこれまでも数々の名言が飛び出してきたが、この回は特に示唆に富む言葉が多く、印象に残った。

 例えば、経済の発展とともに貧富の差が激しくなり、「渋沢栄一が東京の米を買い占めている」とのうわさが流れ、渋沢家の襲撃をたくらむ人間がいる…。そんな話を妻の千代(橋本愛)から聞いた栄一は、次のように語る。

 「今の政府は、貧しい者は己の努力が足りぬのだから、政府は一切関わりないと言っている。助けたい者が、おのおの助ければよいと。しかし、貧しい者が多いのは政治のせいだ。それを救う場がないのが、今の世の欠けているところだ」

 この言葉通り、貧しい者を救うため、自ら保護施設・養育院の運営に関わるようになった栄一は、千代を伴って現地を訪問する。

 その際、千代は、そこに保護された少女に「痛かったら、泣いてもいいんだよ。いいかい、痛かったら泣いてもいいんだ。誰だって、大人だって、子どもだって、血が出れば痛いんだから」と語り掛ける。弱者に対するその優しさに、心を打たれた。

 さらに、「渋沢家襲撃をたくらむ者がいる」とうわさする住み込みの書生たちに、千代が「万が一、暴漢が侵入したら、おまえたちはどうしますか?」と尋ねた場面。

 書生たちが「警察署に駆け付け、巡査に暴漢を捕らえてもらいます」、「(自ら)賊とやり合って犬死なんて、文明を知らぬ時勢遅れのすることだ」と答えると、千代は「今は、昔と違って身分の上下がなくなり、さまざまな制度もできて、まことにありがたいことです」と前置きした後、次のように叱ってみせた。

 「しかし、その今を生きる若い者が、争いごとをただ高みから他人事のように見物し、文句だけを声高に叫んで満足するような人間に育ったのだとしたら、なんと情けないことか。しかも、あろうことか、命を懸け、今の世を作ってくださった先人を、時勢遅れと軽蔑するとは」と。

 ここでもう一つ思い出しておきたいのが、栄一が自宅で家族とくつろぐ冒頭のシーンだ。ここでは、『里見八犬伝』や『三国志』が話題に上がった後、まだ幼い息子の篤二や娘のことが一緒に栄一に体当たりし、親子がじゃれ合う姿が描かれる。

 
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