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さらに、この回のクライマックスを締めたのも、やはり徳川慶喜(草なぎ剛)の無言の表情だった。
家族と再会した栄一は、パリ滞在の報告と自らの身の振り方を考えるため、静岡で謹慎生活を送るかつての主君・慶喜を訪ねる。だが、古い寺で待つ栄一の前に現れたのは、将軍だった頃の威厳や輝きが完全に失われた弱々しい慶喜だった。
その姿に絶句した栄一だったが、「私は、そなたの嘆きを聞くために会ったのではない」という慶喜の言葉に気を取り直し、身振り手振りを交え、意気揚々とパリの様子を語り始める。
すると、黙って聞いていた慶喜の表情が次第に和らぎ、生気を取り戻していく。この場面、寒々しい前半と温かく明るい後半で使い分けられた照明も効果的で、言葉はなくとも、栄一との対面が慶喜の心を解きほぐしていく様子が手に取るように伝わってきた。
この回、久しぶりに栄一の姉なか(村川絵梨)や渋沢家の使用人たちが姿を見せたように、本作に対しては「人を大事にするドラマ」という印象を以前から抱いていた。無言の表情から言葉にならない感情をすくい取ろうとする姿勢からも、その思いが感じられる。
それはつまり、「みんながうれしいのが一番」という栄一自身のポリシーの「みんな」をきちんと見つめているということでもある。そんな本作がこれからどんなドラマを繰り広げるのか気になるところだが、期待を裏切ることはないはずだと、確信を深めた第二十六回だった。(井上健一)