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慶福の次期将軍内定、直弼の大老就任。いずれも、有利な立場にあった慶喜が、相手に思いやりを持って接したことで、八方丸く収まる結果となった。
だがここで、一つ誤算が生じる。それは、現将軍・家定の存在だ。万事うまくいったはずだったが、慶喜嫌いの家定が、慶喜を推した斉昭や慶永の処分を直弼に命じたことで、悪名高い“安政の大獄”へとつながる。ではなぜ、家定はそのような命令を下したのか。その理由は、家定自身が語っている。
前将軍で父の徳川家慶(吉幾三)や幕政を仕切っていた老中・阿部正弘(大谷亮平)が、家定を蚊帳の外に置き、慶喜を重用しようとしたことが、慶喜に対する嫉妬心をかき立てたのだ。つまり、誰も家定に対して思いやりを見せなかったことが、巡り巡ってこの結果を招いた…ということになる。
有利な立場にある者がおごらず、弱者に対して優しさや思いやりを見せることで世の中はうまく回る。前回、斉昭が意見の対立する幕府の使者を「酒でも出してやれ」といたわったときにも感じたことだが、本作の根底には、そんな思想が一貫して流れているように思える。それこそまさに、栄一が語る「みんながうれしいのが一番」につながることではないだろうか。(井上健一)