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“セクシー”“色気がある”…。そんな形容詞と共にブレーク中の斎藤工。主演したドラマ「最上の命医」(11)や「医師たちの恋愛事情」(15)などを振り返ると、そこに“知的”という言葉を加えてもいいかもしれない。さらに、モデルとしても活躍した184センチの長身。知的でスマート、色気にあふれた俳優。女性から支持されるのももっともだ。
だが、斎藤がそんなイメージから大きく逸脱した“変な人物”を演じる映画が、現在公開されている。地味なスーツを着用し、直立不動で礼儀正しいあいさつ。大阪の団地に暮らす熟年夫婦を訪ねてくる、一見、真面目そうな好青年だが、「ごぶさたです」を「五分刈りです」と間違えるちょっとおかしな日本語…。藤山直美、岸部一徳、大楠道代、石橋蓮司らベテラン俳優に混じって、不思議な存在感を発揮している映画。それが阪本順治監督の『団地』だ。
とはいえ、斎藤が“変な人物”を演じるのは、これが初めてではない。過去にインタビューで「スケジュール以外の理由で、出演依頼を断ったことがない」と語っているように、これまで多彩な役を演じてきた。
三池崇史監督の『愛と誠』(12)では、主人公・太賀誠(妻夫木聡)を恋のライバル視するちょっとズレた優等生・岩清水弘役、井口昇監督の奇想天外なアクション『ロボゲイシャ』(09)では、主人公の少女を悪の組織にスカウトする大企業の御曹司、などなど…。ルックス的にも太い黒縁眼鏡やうさんくさそうな長髪など、セクシーさとは程遠い。2001年の俳優デビューから15年。既に出演作は膨大な数に上る。その一つ一つで着実に存在感を発揮してきたことが、現在の活躍につながっている。
『団地』で演じた不思議なキャラクターにも、そうした経験が生きている。大阪のオバチャン、オッチャン連中を演じるベテラン俳優と並んだ時に漂うよそ者らしさと、作品全体におけるフィット感の絶妙なバランスは、斎藤ならでは。しかも、ネタバレになるので詳しくは語れないが、物語の鍵を握る重要な人物なのだ。
現在公開中の映画で言えばもう一つ、『高台家の人々』でも名門一族出身のイケメンエリートビジネスマンという顔の裏に、人の心が読めるテレパスという素性を秘めた役柄を演じている。いずれも共通するのは、どこか浮世離れした不思議なたたずまい。テレビドラマではあまり見せたことのない顔だ。
セクシーな色男から浮世離れしたキャラクターまで、作品に応じて演じ分ける幅の広さ。それが俳優・斎藤工の本当の魅力と言えそうだ。今後も、『全員、片想い』、『種まく旅人~夢のつぎ木~』と出演作の公開が控えているが、それぞれどんな顔を見せてくれるのかが気になるところ。だがまずは、『団地』でその振り幅の大きさを確かめてほしい。
(ライター:井上健一):映画を中心に、雑誌やムック、WEBなどでインタビュー、解説記事などを執筆。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)