【コラム 2016年注目の俳優たち】第1回 松岡茉優&伊藤沙莉 “嫌なヤツ”は名女優への道 『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』

2016年5月10日 / 13:50
伊藤沙莉(左)と松岡茉優 (C)『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』製作委員会

伊藤沙莉(左)と松岡茉優 (C)『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』製作委員会

 テレビ東京ほかで毎週金曜深夜0時52分に放送中の『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』が面白い。

 清野とおるの同名漫画を基に、日常生活の中で自分だけのこだわりを持つ「おこだわり人」を紹介するバラエティー番組…を装った疑似ドキュメンタリー形式のドラマである。

 これまで「ポテトサラダ」「最寄駅から自宅への帰り道」など、一風変わった“おこだわり人”たちが登場した。それぞれのこだわりがユニークなのはもちろんだが、この作品の本当の面白さは別のところにある。

 毎回、おこだわり人を訪ねてレポートするのが、若手女優の松岡茉優と伊藤沙莉のコンビ。プライベートでも友人同士という2人だが、本作では番組を上手にまとめようとする松岡に対して、伊藤が気ままな言動を繰り返してそれをぶち壊す。

 しばしば2人の間に険悪な空気が流れる様子も映し出され、第3話では伊藤がおこだわり人とのキスシーンを披露し、松岡をあきれさせる一幕も見られた。さらに、その後の急展開も衝撃的であった。監督は、昨年「山田孝之の東京都北区赤羽」で話題を集めた松江哲明。そのドキュメンタリー的な手法から生まれる臨場感あふれる2人のやり取りこそ、この作品の真の見どころだ。

 一見、真面目な松岡に対して、伊藤はかなり“嫌なヤツ”に見える。だが、これはあくまでも脚本が存在するドラマ。多分にドキュメンタリー的な要素も含まれてはいるが、2人とも役を演じているに過ぎない。

 物語を面白くする要素の一つに“魅力的な悪役”があるが、この作品でその役割を担っているのが、“嫌なヤツ”の伊藤だ。そして、彼女のキャリアを振り返ってみると、これまでもたびたび“嫌なヤツ”を演じてきたことが分かる。

 ハスキーな声と歯切れの良い語り口から生まれるボーイッシュな雰囲気が特徴の伊藤は子役時代、小学校を舞台にしたドラマ「女王の教室」(05)に生徒役で出演。主人公の友人として登場しながらも、途中でいじめる側に回る役を演じた。近年も「GTO」(14)や「怪盗 山猫」(16)などで、絶妙ないじめっ子ぶりを披露している。

 一方の松岡も、実は“嫌なヤツ”を演じるのがうまい。彼女が注目されるきっかけとなったのは、女子グループの中で自分の立場を見極めながら功利的に振る舞う女子高生を演じた『桐島、部活やめるってよ』(12)だ。現在公開中の『ちはやふる ―下の句―』(16)でも、熱血主人公の強敵となる競技かるたの“クイーン”をクールに演じている。

 “嫌なヤツ”をどれだけ嫌らしく演じられるか。

 これは、俳優の実力を示す一つの指標と言える。昨年「サイレーン 刑事×彼女×完全悪女」(15)で強烈な悪女を演じた菜々緒が注目を集めたことは記憶に新しい。ほかにも、古くは桃井かおりから宮崎あおい、柴咲コウなど、“嫌なヤツ”を演じてキャリアを築いた女優は数多い。

 子役時代から長年の経験を生かして“嫌なヤツ”を演じる伊藤と、“嫌なヤツ”役で注目を集め、今年は大河ドラマ「真田丸」にも出演する松岡。今後が気になる『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』はもちろん、“嫌なヤツ”を演じられる2人のこれからの活躍が楽しみだ。

(ライター:井上健一):映画を中心に、雑誌やムック、WEBなどでインタビュー、解説記事などを執筆。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)


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