【映画コラム】“老人力”の素晴らしさを示した『ペコロスの母に会いに行く』

2013年11月9日 / 19:50

(C)2013『ペコロスの母に会いに行く』製作委員会

 認知症の母みつえとバツイチでハゲちゃびんの息子ゆういちが繰り広げる、おかしくも切ない日常を描いた『ペコロスの母に会いに行く』が、舞台となった長崎で9日から先行公開された。全国公開は16日から。

 本作は、漫画家の岡野雄一が、自身の経験をヒントに描いたエッセーコミックを基に映画化。監督は『ニワトリはハダシだ』(04)以来約9年ぶりとなる85歳の森崎東。みつえを演じた赤木春恵が89歳にして映画初主演を果たした。

 森崎監督とゆういち役の岩松了、若き日のみつえを演じた原田貴和子と妹でその友人を演じた原田知世は皆長崎出身。それ故、長崎への思いが画面からあふれ“ご当地映画”としての要素も強く感じられる。長崎や九州各地の風景も本作の見どころとなっている。

 森崎監督は、『男はつらいよ』(69)の脚本、監督デビュー作『喜劇・女は度胸』(69)、『喜劇 女~』シリーズ(71~72)、『生きているうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言』(85)などで、バイタリティーに富む庶民の姿を、ユーモアとペーソスを交えながら描き続けてきた。

 そうした“森崎喜劇”は今回も健在で、深刻なテーマである認知症や介護を扱いながら、軽やかなタッチで前向きに描いているところに驚く。特にみつえが入所する老人ホームの面々(佐々木すみ江、正司照枝、白川和子、穂積隆信ら)の群像劇が秀逸。ひょうひょうとした彼らの演技は、森崎監督、主演の赤木と共に“老人力”の素晴らしさを示している。

 また、夫(加瀬亮)の幻影が度々みつえの元を訪れるシーンも印象に残る。「死んでからの方が、うちによう会いに来る」と喜ぶ母を見て、息子も「ボケるとも悪か事ばかりじゃなかかもしれん」と思う重要な場面だ。酒乱だが本当は優しかった若き日の父を加瀬が好演している。

 同じく9日に公開された『四十九日のレシピ』もそうだが、最近の日本映画には、亡くなった人との対話の中から残された者が生きる力を得ていくものが多く見られる。こうした傾向は、東日本大震災と決して無縁ではあるまい。(田中雄二)


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