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NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。4月21日に放送された第十六回「華の影」では、藤原道隆(井浦新)率いる藤原一族の隆盛と都に疫病がまん延する様子、その中での主人公まひろ(吉高由里子)と藤原道長(柄本佑)の再会が描かれた。
この回、悲田院で病に倒れたまひろを道長が救い、必死に看病する場面がクライマックスとなったが、そこに至る2人の再会は劇的だった。前回は2人の関係が描かれず、第十四回の冒頭、道長邸ですれ違って以来の再会なので、顔を合わせるのは久しぶりの印象だ。劇中でも4年が経過している。冷静に考えれば、そんな偶然は現実的ではないので、下手をすれば“ご都合主義”と批判されかねないところ。だが、この回の2人の再会は違和感を抱かせなかった。そこに、物語展開の緻密さがうかがえる。
この回は基本的に、道長が関わる朝廷側のドラマを中心に物語が展開。道長らを差し置いて嫡男・伊周(三浦翔平)を内大臣にするなど、やりたい放題の関白・道隆は、都にまん延する疫病についても、一条天皇(塩野瑛久)に「疫病は下々の者しかかからぬものゆえ、われわれにはかかわりございません」などと発言し、事態を放置。世の中を顧みることなく、ひたすら自分の権勢を高めようとする傲慢(ごうまん)さが浮き彫りになった。
それとは対照的に、道長は「疫病の対策を陣定でお諮りください」と兄・道隆に進言するなど、疫病対策に尽力。前回は、父・兼家(段田安則)に裏切られて失意のどん底にいた次兄・道兼(玉置玲央)を立ち直らせる一幕も見られたが、その誠実な人柄が浸透しているゆえに、その後の悲田院訪問も説得力があった。(「私は死ぬ気がしませぬゆえ」というせりふには笑ったが。)
一方、道長と異なり身分の低いまひろは、そういった世の動きとは無縁で、石山寺で仲違いしたさわ(野村麻純)に繰り返し手紙を送るなど、関係修復に気をもむ日々。そこへ、文字を教えていた少女たねから、「両親が帰ってこない」と聞き、救護施設の悲田院を訪れ、疫病に苦しむ人々の姿を目にして看病を始める。
この後、まひろと道長の再会に至るが、2人が貧しい人々に思いをはせる優しさを持っているのは、「直秀の悲劇」という共通体験があるからだろう。それも含めてここまで積み重ねてきた人物描写が、悲田院という場所を選んだこととも併せ、2人の再会に説得力を与えている。「この2人なら、ここに行くだろう」という納得感があるのだ。仮に再会の場所が、悲田院以外だったら、また違った印象を受けたかもしれない。そう考えると、改めて展開の緻密さにうならされる。その点、まひろの家に仕えるいと(信川清順)の「藤原道長…?誰?」「殿様、姫様と大納言様は、どういうあれなんでしょうか?」というせりふも、客観的に見たまひろと道長の関係をさりげなく伝えていて効果的だった。
余談ながら、主人公を強引に世の動きに絡めることなく、権力の中枢に近い別の人物を配置して大局を描き、無理なくドラマを展開する手法は、主人公・渋沢栄一と徳川慶喜の2人を軸に物語が展開した「青天を衝け」(21)前半を思い出す。時間をかけて物語を紡ぐことができる大河ドラマならではの手法といえるかもしれない。
道長の懸命の看病のかいもあり、無事に意識を取り戻したまひろだが、再会した道長との関係は再びどう動いていくのか。今後の展開が気になるラストだった。
(井上健一)