【映画コラム】“デル・トロ・ワールド”と呼ぶしかないような、摩訶不思議な世界『シェイプ・オブ・ウォーター』

2018年3月3日 / 18:53

 メキシコ出身のギレルモ・デル・トロ監督が、種族を超えた愛を描いたファンタジーロマンス『シェイプ・オブ・ウォーター』が公開された。

(C)2017 Twentieth Century Fox

 1962年、米政府の研究機関で清掃員として働くイライザ(サリー・ホーキンス)は、秘かに運び込まれた不思議な“生き物”を目撃する。アマゾンの奥地で神のようにあがめられていた“彼=クリーチャー(半魚人)”(ダグ・ジョーンズ)に心を奪われたイライザは、周囲の目を盗んで彼に会いに行くようになる。

 デル・トロ監督は「異質なものや異種のものを恐れている、今の時代にこそ、こうしたストーリーが必要だと感じた。ただ、設定を現代にすると、なかなか人は耳を傾けてはくれない。それならば、寓話(ぐうわ)やおとぎ話のようにして語れば、聞く耳を持ってくれるのではないかと考えた」と語っている。なるほど、そう聞くと本作は、人魚伝説を描いたロン・ハワード監督の『スプラッシュ』(84)の逆パターンとして捉えることもできる。

 また、デル・トロ監督が「1950年代の映画だったら、(本作の敵役である)軍人のストリックランド(マイケル・シャノン怪演!)の方が主人公になり、クリーチャーは悪役だっただろう。今回は、そういう設定を反対にしたいと思った」と語るように、本作の登場人物は一筋縄では行かない個性的な人物ばかりだ。

 そして、子どもの頃のトラウマが原因で声が出せないイライザとクリーチャーの言葉を超えた愛を描き、この2人に加えて、イライザの隣人であるゲイの画家ジャイルズ(リチャード・ジェンキンス)、イライザと共に働く黒人のゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)といった、マイノリティーを物語の中心に置くことで、差別や人種の違いといった問題を浮き彫りにしていく。

 また、イライザやジャイルズが住むアパートの部屋、その階下にある映画館、研究所の独創的なセットや色使いなど、もはや“デル・トロ・ワールド”と呼ぶしかないような、摩訶不思議な世界を現出させたことも特筆に値するだろう。

 さらに「この映画は、私自身の映画に対する愛を込めて作った」とデル・トロ監督が語るように、元祖クリーチャー映画『大アマゾンの半魚人』(54)をはじめとするユニバーサルのホラー映画はもとより、ミュージカル映画を数多く手掛けたスタンリー・ドーネンにオマージュを捧げたというミュージカルシーンまであるから驚く。

 
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