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「ウルトラマン」の放送開始から今年で50年。メモリアルイヤーとなる2016年は、さまざまなイベントやテレビ特番などでにぎわいを見せている。そんな中、満を持して7月9日から放送開始となったのが、シリーズ最新作「ウルトラマンオーブ」(テレビ東京系土曜午前9時)だ。
「今までのウルトラマンをぶち壊すぐらい、新しいことをやる」
田口清隆監督が制作発表会で語った通り、第1話「夕陽の風来坊」では、先輩ウルトラマンたちの力を借りて変身する主人公は防衛チームに所属しない、といった新機軸が新鮮な印象を残した。
その意気込みは、キャスティングにも表れている。これまでウルトラマンは、若手俳優の登竜門として黒部進、森次晃嗣、長谷川初範、長野博、つるの剛士、杉浦太陽など、数々の俳優を送り出してきた。
だが、本作でウルトラマンオーブに変身する主人公クレナイ ガイを演じる石黒英雄は、05年の俳優デビュー以来、既に10年を越えるキャリアを持つ。「エリートヤンキー三郎」(07)などに主演したほか、NHK大河ドラマ「平清盛」(12)、「軍師官兵衛」(14)にも出演歴があり、もはや中堅と言っていい。シリーズを通して、これだけのキャリアを持つ俳優が主演するのは極めて異例だ。
だが、その起用は、作品にとってプラスに作用しているようだ。謎めいた風来坊というガイのキャラクターを作り上げるに当たって、石黒は自ら「人間くさくしたい」と提案し、ヒーローとしての格好良さにユーモアが加わった。新人とは異なる積極的な取り組みは、10年のキャリアがあればこそだろう。
今後は石黒自身もアクションを披露し、ガイの秘められた過去がストーリーに大きく関わるなど、見せ場はさらに増える。石黒がいかに演じてくれるのか、楽しみだ。
一方、これまでシリーズのヒロインを演じた女優と言えば、桜井浩子、ひし美ゆり子、石田えり、吉本多香美、満島ひかりなど、防衛チームの紅一点(二点の場合もあるが)と相場が決まっていた。だが、本作の夢野ナオミは、仲間と怪奇現象追跡サイト「SSP(サムシングサーチピープル)」を運営する民間人だ。
演じるのは松浦雅。NHK連続テレビ小説「ごちそうさん」(13~14)で、主人公め以子(杏)の娘・ふ久を演じていたと聞けば、思い出す人も多いのではないだろうか。口数の少ないふ久をはじめ、これまで落ち着いた印象が強かった松浦だが、第1話では竜巻で飛ばされるアクションにも挑戦するなど、はつらつとした活躍が光った。表情豊かで生き生きとしたその演技は、新たな魅力となるに違いない。
また、民間人ということで、従来のように制服姿ではないところもポイント。第1話でも前半と後半で衣装を変えていたが、さまざまなアルバイトをしながらSSPの活動を支えるというナオミのファッションも、見どころになりそうだ。
これまで放送されてきた無数のテレビ番組の中で、「ウルトラマン」ほど長く世代を越えて愛され続ける作品は他にない。それは同時に、これから番組終了後も長く彼らの活躍が私たちを楽しませてくれることを意味する。新たな50年に向けた一歩を踏み出す若いキャストに期待したい。
(ライター:井上健一):映画を中心に、雑誌やムック、WEBなどでインタビュー、解説記事などを執筆。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)