家の芸を継承し新作にも挑む 大活躍、片岡愛之助の全て

2014年4月16日 / 15:50

(C)衛星劇場

 昨今、活動をさまざまな場所に広げて華々しく活躍している片岡愛之助。CS放送の衛星劇場では、4月、愛之助の出演作を集中的に放送する「片岡愛之助特集」を組んでいる。舞台の見どころをまとめた。

 子役を経て、『封印切』の梅川など女方を勤め、30歳ころから主に立役を演じてきた愛之助。松嶋屋(片岡家)の俳優として、師でもある先代の十三代目片岡仁左衛門や、平成歌舞伎を担う十五代目仁左衛門が演じてきた『義経千本桜 すし屋』の権太、上方狂言の『吉田屋(廓文章)』の伊左衛門、『夏祭』の団七など大役を次々とこなしている。八代目仁左衛門は一時期、七代目市川團十郎の養子であった。愛之助の『毛抜』の粂寺弾正、『鳴神』の鳴神上人は、松嶋屋と成田屋(市川家)との関わりもあっての舞台だ。

 東の江戸歌舞伎と西の上方歌舞伎は、近代までは歌舞伎の両輪であったが、仁左衛門家は東西の舞台に足跡を残している。愛之助もまた、東西の芝居を演じる立場にあるが、父の片岡秀太郎とともに関西に居を構える彼の思いは、十三代目仁左衛門が私費を投じて関西の歌舞伎を衰退から守ったことと無関係ではないだろう。松嶋屋は日舞の花柳流と縁戚だが、愛之助が上方舞の楳茂都流に請われ、三代目楳茂都扇性を襲名し四世家元になったことは、歌舞伎と舞踊の深い関係を感じさせ、上方舞の隆盛を願う決意がうかがわれる。

 「片岡愛之助特集」は東と西の芝居、舞踊に活躍した松嶋屋の俳優として、その魅力を披露するものと言えよう。 

 『源平布引滝~義賢最期』は十二代目仁左衛門が復活し、当代の十五代目仁左衛門が当たり役とする義太夫狂言だ。義太夫節の浄瑠璃による狂言は、 歴代の仁左衛門が得意とした。太夫の語りと三味線の演奏で人物の行動や場面の状況を説明する義太夫狂言では、浄瑠璃の言葉と三味線の音を聞き、役の心を表現していく。愛之助の演じる木曽先生義賢(きそのせんじょうよしかた)は、叔父の十五代目仁左衛門に教わった。病身を示す”五十日鬘”を付け、前半は源氏の武士ながら平家に従う複雑な心境を”肚(はら)”で見せ、後半は一転、動の演技になる。組んだ戸板に登り、戸板とともに倒れる”戸板倒し”、素襖大紋の正装で軍兵と立ち回り、高二重の舞台に仁王立ちとなり、”こうもりの見得”で決まり、屋体から三段(階段)を滑り落ちる”仏倒し”となる。手を使わず前に倒れる危険な演技である。愛之助は恐れず果敢に演じ、この芝居のドラマが最高潮に達する義賢の最期を壮絶に見せている。

  『恋飛脚大和往来~新口村』も松嶋屋とは縁の深い上方狂言だ。亀屋忠兵衛は当代の仁左衛門の当たり役であり、十三代目仁左衛門の情愛に満ちた孫右衛門は至芸と言われた。愛之助の忠兵衛は、その十三代目の孫右衛門で梅川を演じた父秀太郎から教わった役だ。恋ゆえに公金を横領し、死ぬ前に実の父孫右衛門に会いたいと大和の新口村に来た忠兵衛と、連れ添う恋人の梅川。雪景色を背景に、二人は梅を描いた裾模様の、同じ黒色の衣裳で現れる。”比翼”と呼ぶ姿だが、顔を隠す糸立て(粗末なむしろ)を取ると、頬被りに白塗りの忠兵衛が顔を見せ、身を潜めた百姓家の窓越しに父への思いをのぞかせる。愛之助のその表情が美しい。忠兵衛は上方狂言の二枚目の役柄だが、愛之助は立役の性根もしっかりと見せ、親子の情愛、死出の旅の哀切をしみじみと演じている。

 『羽衣』は明治時代の演劇改良運動から生まれた舞踊劇である。浜辺に舞い降りた天女が漁師伯竜に舞を見せ、天の羽衣を返してもらうという羽衣伝説をもとにし、能楽の趣も取り入れている。この舞台に幻想的な雰囲気が漂うのは、新時代の高尚な作品を目指した成立の経緯とも係わるが、天女を演じる坂東玉三郎の意図により、美のエッセンスを凝縮した、典雅な華やかさが目を引く。愛之助の伯竜は釣り竿だけで漁師を表す、象徴的な役柄作りである。江戸時代には裸同然で踊る風俗舞踊もあったが、この舞踊劇の眼目は折り目正しく演じ、観客に美的な印象を与えることにある。大歌舞伎の俳優らしい品格と技量が求められ、顔のこしらえ、手足一つの動き、息遣いにも神経を配っていることが伝わる。

 時代物や上方和事、荒事など古典の芝居で大役を次々と演じる一方、新しい歌舞伎の創造に燃えている愛之助。スペイン人の神父を父に持ち、フラメンコを踊る大盗賊石川五右衛門に扮(ふん)する『GOEMON』や、古典の『女殺油地獄』にミュージカル「ウエストサイド・ストーリー」を融合させた『大坂純情伝』など新作に取り組み、奇抜な発想を舞台化している。歌舞伎は伝統の継承だけでなく、新しい風を舞台に送り込むことでファンを呼び、400年を超える長い歴史を刻んできた。愛之助も温故知新の精神で古典、新作の両方で活躍し、21世紀歌舞伎のリーダーになることだろう。

 なお衛星劇場では、ホームページで「片岡愛之助 特設ページ」を開設し、インタビューやコメント動画などを掲載している。URLはhttp://www.eigeki.com/special/kataoka-ainosuke。

 

【放送情報】

衛星劇場 4月放送<片岡愛之助特集>

◎『片岡愛之助 SPインタビュー』(2014年)

出演:片岡愛之助

16日(水)後6.15~、19日(土)前10.45~ほか、5月も放送あり

 

浅草歌舞伎2014~片岡愛之助特集~

◎『源平布引滝~義賢最期』(テレビ初放送)

2014年1月 浅草公会堂 出演:片岡愛之助、中村壱太郎

29日(火)後4.15~

 

◎『恋飛脚大和往来~新口村』(テレビ初放送)

14年1月 浅草公会堂 出演:片岡愛之助、中村壱太郎

17日(木)後5.00~

 

特選歌舞伎~片岡愛之助特集~

◎『羽衣』

07年10月 歌舞伎座 出演:坂東玉三郎、片岡愛之助

16日(水)後5.30~

 

◎映画『宮城野 ディレクターズカット版』

出演:毬谷友子、片岡愛之助

20日(日)後9.00~、25日(金)後9.00~

 

文◎朝田富次


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