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2022年に閉館したお台場の「ヴィーナスフォート」跡地に新たなテーマパーク「イマーシブ・フォート東京」がオープンすることが10月に発表された。この新たなテーマパークを手掛けるのは、USJや西武園ゆうえんちをV字回復させた森岡毅氏が率いるマーケティング会社・刀。世界初となるイマーシブ・テーマパークをどのような形で作り上げるのか、話題を呼んでいる。と、同時に「イマーシブシアター」ってなに? とその聞き慣れない言葉に戸惑いを覚えた人も多いのではないか。今回は、「イマーシブシアター」の魅力に迫るとともに、注目の公演「Anima」を紹介する。
「イマーシブシアター」は、2000年代にロンドンで始まり、新たな演劇手法として世界的に広まった体験型演劇の総称だ。客席に座ってステージ上で繰り広げられる物語を見る通常の演劇とは違い、観客が空間内を動き回って物語を体験する。それゆえ、目撃したシーンを観客自身が頭の中で構成することでストーリーを把握するのも特徴である。
ただし、現在は明確な定義が存在しているわけではないため、一概にこれがイマーシブシアターでこれが違うとは言い切れないという側面もある。目の前で目撃した謎や事件を登場人物と一緒に行動・会話しながら体験していく公演もあれば、自由に空間を歩き回れるものの会話は禁止、その世界観にどっぷりと浸かることを目的とした公演もある。
「日本独自のイマーシブシアターを世界に届ける」をビジョンに掲げ、イマーシブシアターを制作するクリエーティブユニット「daisydoze」で作・演出を手掛ける竹島唯さんは、イマーシブシアターについて次のように説明する。
「何がイマーシブシアターなのかは私たちも常に考えています。『脱出ゲーム』や『謎解き』をイマーシブシアターだと考えている方もいらっしゃいますが、私たちの作る作品はそうした要素はない。どうやったら没入して夢の世界を浮遊できるようになるのかという表現に重きを置いて作品を作っています。そういう意味で、さまざまなジャンルがあると考えていただけたらうれしいです」
さて、そんなイマーシブシアターだが、その魅力を知るには、実際に観劇してみるのが一番だ。
12月9日・10日・16日・17日の4日間限定で上演される「Anima」は、「daisydoze」が多くのミュージカル・演劇作品を世に送り出してきた東宝演劇部による制作協力のもと上演する作品だ。東京・日本橋のアートホテル「BnA_WALL(ビーエヌエーウォール)」の地下1階から5階まで全館を貸し切り、心理学者であり夢分析を専門とするユングを主人公にしたストーリーを展開する。
イマーシブシアターでは、大きな謎が提示されたり、何らかの大事件や出来事が起こったりと、ミステリー要素の強い作品も多いが、「daisydoze」の作品は謎を追い求めるのではなく、あくまでもその世界に入り込むことを主とした公演となっている。今回の「Anima」は、夢の中から目を覚まさなくなった妻に責任を感じたユングが、「宿泊者の夢が表れて浮かぶ」というホテルでさまざまな人物の夢の中に潜り込んでいくという物語。観客たちは夢の中の深層世界を漂うような感覚を味わうことができる。
アートディレクション・演出を務めるdaisydozeの近藤香さんは「私たちの作品には3つの特徴があります」と話す。
「まず一つ目は、圧倒的な没入感です。お客さんがどこをどう見ればいいのか迷うようなことがあると没入ができなくなってしまうので、そうしたことがないようにしたいと考えています。なので、1つのシーンを同時に見る人数まで綿密に組み上げています。
そして、二つ目は地域。私たちが1番大切にしているのは場所なので、作品を作るときにまず場所を探しにいくんです。日本の、その場所でしかできない作品を作ることを特徴にしています。
三つ目は、ノンバーバルであること。せりふを話す場面ももちろんありますが、たとえそれがなくても、言葉を理解できなくても楽しめる構成になっていると思います。世界を目指すという前提がある作りになっています」
続けて竹島さんも「アートディレクションと衣裳にもかなりのこだわりがあります。全ての衣裳を近藤がディレクションし、キャラクターに合ったものを手縫いで作っています。それも一つの表現として楽しんでいただけると思います」と語った。
今後、日本でもさらなる注目が集まるであろう「イマーシブシアター」。近藤さんは「認知を広げるためにも、さまざまな種類の公演がもっとたくさんの方の目に触れるようになることが盛り上がるためには必須だと考えています。そして、映画を見に行くのと同じくらい、カジュアルな感覚で足を運べるものになってほしい。そうすることで、私たちパフォーマーはさらに探求できるのだと思います」と展望を話した。
イマーシブシアターは“体感”を大事にしている演劇形態だけに、劇場で演劇やミュージカルを観劇するよりも間口が広いのではないかと感じている。自分が物語の登場人物になったかのような気分で作品を楽しめるので、劇場では集中力が途切れてしまうという人も、最後までどっぷりと浸かれるのではないだろうか。それだけにぜひ、観劇慣れしていない、劇場に足を運ぶ機会が少ない人にもおすすめしたい。
(取材・文/嶋田真己)
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