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全国ツアーの打ち上げは、楽器がある店で行うことが多く、ときにはバンドのメンバーたちと気軽にセッションを楽しむこともある。そのリラックスした雰囲気をファンの皆さんにも体験してほしいーー8月10日のビルボードライブ東京での公演【one more live “大橋トリオ our gold After party”】は、そんな趣旨のもとで開催された。参加ミュージシャンは、5月から7月にかけて行われたホールツアーと同じく、高木大丈夫(Gt)、神谷洵平(Dr)、須長和広(Ba)、武嶋聡(Sax)、Takumadrops(Pf)。アルバム『GOLD HOUR』の楽曲、“1本マイクコーナー”をコンセプトにした最新ミニアルバム『MONO-POLY』の収録曲などを交え、大橋トリオ流のアンプラグドを堪能できる、かけがえのない時間がそこにはあった。
1stステージの開演は16時。スタート時間を少し過ぎた頃、客席の照明が落とされ、大橋がひとりでステージに上がる。鍵盤の前に座り、ゆったりと音を響かせた後――切ない郷愁を誘うような旋律――〈遠い陽炎が霞んでゆく〉と歌い始める。1曲目はバラードの名曲「Dearest Man」。ワンコーラスを過ぎたところでメンバーが登場し、オルガン、コントラバス、アコギなどの音が重なる。オーガニックな響きが会場全体を包み込み、豊かな音楽の世界へと誘われていく。
大橋がステージの真ん中に移動し、アコギを手に取る。高木がスライドギターを演奏し、雰囲気はいきなりブルースへ。途中で高木がバンジョーに持ち替え、2曲目の「キャンディ」が奏でられる。体がフッと緩むような、穏やかなボーカルが心地いい。さらに鳥のさえずりのSE、大橋の鍵盤ハーモニカの音色から「lullaby」。オーガニックな音像、豊かな表現力を備えたミュージシャンの演奏、そして、情感や光景をゆったりと想起させる歌声が溶け合っていく。それはまさに、ジャズ、カントリー、フォークなどのルーツミュージックを良質のポップソングへと導く大橋トリオの在り方そのものだった。
「最初からこの公演をやると決めて、ホールツアーを組んでまして。そうじゃないとこのメンバーを押さえられないので(笑)」という挨拶から、今回の公演の趣旨を説明。
「ツアーの打ち上げで楽器の置いてあるところに行くんだけど、そこで大盛り上がりするんですね。その様子をみなさんと分かち合いたいなと。……せっかくだから飲んでやりますか?(笑)」という気の置けないトークによって、会場はさらにリラックスしたムードに。さらに「MTV Unpluggedのシリーズの大ファンなんです」という話から“アンプラグド”定義に言及。「今回の公演はそれをやれるチャンスだなと思い。最後までよろしくお願いします」という言葉に会場から大きな拍手が送られた。
ここで披露されたのは「Shangri-La」。8月13日リリースの新作ミニアルバム『MONO-POLY』にも収録された、電気グルーヴのカバー曲だ。原曲に引用された「スプリング・レイン」(ベブ・シルベッティ)のメロディにサルサ的なリズムを合わせた有機的なアレンジがなんとも気持ちいい。間奏パートのパーカッション・セッションもいいアイデアだった。続く「新宝島」(サカナクション)は大橋の「せーの!」という掛け声からはじまり、印象的なリフをTakumadropsが鉄琴で演奏。ソプラノサックスの華麗なソロも含め、意外な選曲と流石のアレンジ、プレイヤーのセンスの組み合わせが素晴らしい。
「風船メモリー」も深く心に残った。アルバム『GOLD HOUR』に収録されたこの曲は、大橋トリオのポップな側面が強く表れた楽曲。ネオソウルやジャズを軽やかに行き来するようなサウンド、軽快なメロディラインが響き合い、華やかな雰囲気とオーディエンスの手拍子が広がっていく。楽曲の途中、ポエトリー・パートの〈feel so good/このまま時を止めて〉のところで演奏がストップし、手拍子だけが鳴り響く演出も楽しかった。
「目指すはエリック・クラプトンのアンプラグドなんですよね」「今日は打ち上げみたいなライブにしたくて、衣装もラフな感じで……って言ってたんだけど(ジャケットを着たメンバーを観て)しっかりキメてきちゃって(笑)」というフレンドリーなトークからライブは終盤へ。「GOLD FUNK」には大胆にラテン・アレンジが施され、メンバー全員のソロ演奏を交えながら躍動感のあるサウンドが響き渡り、観客もナチュラルに身体を揺らす。大橋がバンジョーを弾いた「Happy Trail」から伝わってきた明るい予感もまた、このライブのハイライトだったと思う。
バンドメンバーがステージを降り、1人残った大橋が再びピアノの前に座り、演奏の前に手紙をしたためる。
「8月10日、After Partyでお待ちしています。しばらくは『GOLD HOUR』に悩まされそうだなあ。未来のトリオより」
そう書かれた(読み上げた)手紙を「タイムマシーンで届けてもらっていいかな。これが札幌、これが仙台、これが大阪、これが名古屋、これが石川、これが広島、これが福岡、そして、東京・NHKホール」と配達員に手渡す。最後に披露されたのは、そう、「タイムマシーン」。いつかは終わりがくると知りながら、人は未来を見つめて進んでいくーーそんな思いを描いた歌が、観客ひとりひとりの胸に沁み込んでいくのがはっきりとわかる。〈本当はこの瞬間の事を/永遠と呼ぶのかな〉というフレーズは、まるで音楽そのものだ。
アウトロに入るタイミングでバンドメンバーが舞台に戻り、全員で演奏。ステージ奥のカーテンが開き、曇り空の東京の姿が目に飛び込んできて、ライブはエンディングを迎えた。
11月には東京、横浜、大阪で、ビルボートライブ・ツアーの開催も決定(6人編成による、ジャズを意識したステージになるとか!)。いい曲、いい音、いいアレンジ、いい演奏。当たり前のことを当たり前にやりながら、ポップミュージックの可能性を広げ続けている大橋トリオの次なるアクションが今から楽しみでしょうがない。
Text by 森朋之
Photos by 堀内彩香
◎セットリスト
【大橋トリオ
one more live “大橋トリオ our gold After party”】
2025年8月10日(日)東京・ビルボードライブ東京 1st Stage
1. Dearest Man
2. キャンディ
3. lullaby
4. Shangri-La
5. 新宝島
6. 風船メモリー
7. GOLD FUNK
8. Happy Trail
En1. タイムマシーン
◎公演情報
【大橋トリオ
TRIO Sextet Billboard Live Tour】
2025年11月9日(日)東京・ビルボードライブ東京
1stステージ OPEN 15:00 / START 16:00
2ndステージ OPEN 18:00 / START 19:00
2025年11月14日(金)大阪・ビルボードライブ大阪
1stステージ OPEN 17:00 / START 18:00
2ndステージ OPEN 20:00 / START 21:00
2025年11月23日(日)神奈川・ビルボードライブ横浜
1stステージ OPEN 15:00 / START 16:00
2ndステージ OPEN 18:00 / START 19:00
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