<ライブレポート>「あなたの人生がヒゲダンを強くさせていることを忘れないでほしい」Official髭男dismが初のスタジアムツアーを経て辿り着いた“新たな夢”

2025年6月5日 / 19:00

 Official髭男dismが初のスタジアムツアー【OFFICIAL HIGE DANDISM LIVE at STADIUM 2025】を開催した。本ツアーは、5月17日、5月18日に大阪・ヤンマースタジアム長居、2025年5月31日、6月1日に神奈川・日産スタジアムにて開催され、4日間で25万人を動員した過去最大規模のツアーだ。

 巨大な会場を優に揺らすダイナミックなサウンドに、野外ライブならではのスケールの大きい演出。往年のスタジアムバンドへの憧憬やリスペクトが滲むメンバーのプレイ。音楽を介したオーディエンスとの豊かなコミュニケーション。6月1日に神奈川・日産スタジアムで行われたツアーファイナル公演は、Official髭男dismの偉大さとチャームに彩られたライブだった。グレイテスト・ヒッツ的なセットリストからは、7万人のオーディエンスの期待に応えようというメンバーの想いや、バンドの器の大きさを感じた。一方、ドラムセット周辺に集合し、島根のライブハウス時代からのレパートリー「異端なスター」を鳴らす4人の笑顔は、バンドを始めたばかりの少年のようだった。

 インディーズ・デビュー10周年の節目ということで、Official髭男dismのバンド人生がここに結実しているような印象があったが、彼らの旅路はまだまだ続く。ライブ中、わりと早い段階で、藤原聡(Vo/Pf)がこのツアーを「ようやく辿り着いた」ポイントではなく、Official髭男dismの「新たな幕開け」として位置付けていると明かしていたのも象徴的だった。その上で語られた、新たな“夢”とは。開演から振り返っていきたい。

 開演時刻になると、まず、ステージに構える湾曲状の巨大LEDスクリーンに、オープニング映像が映された。その映像はステージに向かうメンバーを捉えたもので、4人は舞台袖にいるスタッフとハイタッチを交わしたあと、観客の拍手や歓声に迎えられた。藤原が両の拳を突き上げると、スクリーンにライブタイトルがドーンと表示される。まるで映画のワンシーンみたいなこのオープニングの時点で、きっと素晴らしいライブになるだろうと多くの人が予感したことだろう。小笹大輔(Gt)の奏でる5拍子のギターリフをきっかけに始まったのは「Same Blue」。スクリーンが真っ青に染まるなか、力強くも爽快なサウンド、〈ちゃんと届けたい あなたの心の中へ〉と歌うクリアなボーカルが、観客一人ひとりの元に届けられた。

 藤原が「日産スタジアムのみなさん、来てくれてありがとうございます! 最後までよろしく!」と軽快に告げると、2曲目はソウルナンバー「Universe」だ。この曲からホーンセクションやコーラス隊を含む10名のサポートメンバーが合流。さらに松浦匡希(Dr)の気合いの入ったカウント、楢﨑誠(Ba/Sax)のウォーキングベース、超高音のトランペットから「ミックスナッツ」へ。ライブ序盤にしてかなり楽しい展開だ。全パート音の粒が細かく、ステージから放たれるサウンドは、膨大な情報量、色彩を内包している。トレモロアームを駆使しながらのテクニカルなギターフレージングも、饒舌でもはやメロディを奏でているようなベース&ドラムも凄まじい。

 すごすぎて笑うしかないほどの音の大洪水。感情の高まりを抑えきれない観客も多かったようで、バンドの音が一旦止むと、客席のあちこちから、メンバーの名前を呼ぶ声が飛んできた。最初のMCでは藤原が、「今日も7万人のみなさんと一緒にライブができることを嬉しく思います」と意気込み、観客の声援に「心強いです」と微笑む。遠くの席にいる人、近くの席にいる人、友達と来た人、家族で来た人、一人で来た人……様々な人に呼びかけながらの「一人で来た人も、一人じゃないぜ。ヒゲダンが、非常にデカい顔をして近くにいますから。とても遠くのあなたでも音で近くまで迫っていきますので、どうか安心してください」という言い回しもユニークだ。

 MC明けに披露されたのは「パラボラ」で、スクリーンいっぱいに観客の姿と楽曲の歌詞が映された。改めて見ると、嬉しそうにリズムにノる人、カメラに向かって和やかに手を振る人、感極まったような感じで立ち尽くしている人……本当に様々な人がいる。ヒゲダンの楽曲はメンバーの人生、生活から生まれたものに違いないが、今やこれだけ多くのリスナーの人生とも共鳴している。無数の人生が同じ音楽の下に集まる、ライブという空間の尊さを噛み締めたシーンの一つだった。続く「Laughter」は、音楽の道を選んで山陰から上京した頃のメンバーの心境が刻まれた曲だが、今は人生の岐路に立った人の心に寄り添う曲として広く愛されている。

 この頃には日没の時間帯に差し掛かり、セットリストはバラード中心に。「115万キロのフィルム」では藤原のフェイクに会場が沸き、大ヒットソング「Pretender」は聴きたいと思っていた人が多かったのか、冒頭のギターリフの時点で歓声が上がった。さらに、噴水を用いた美麗選出とともに「イエスタデイ」が、シリアスで重々しいコードに帰着した鍵盤のインタールードを経て「Subtitle」が届けられる。

 小笹、楢﨑、松浦のセッションをきっかけに、会場の空気は一変した。3人の鳴らすハードロック・サウンドに、観客が胸を熱くさせながら拳を突き上げる。藤原&サポートメンバー合流後に始まった「FIRE GROUND」ではステージで炎が上がり、藤原のショルダーキーボードと小笹のエレキギターが揃ってフレーズを奏でる見せ場もあった。松浦のフィルイン&「ニッサーン!」のシャウトから始まった「ノーダウト」はスカバージョンで、楢﨑のバリトンサックスやホーン隊のサウンド、原曲よりもテンポを速めるという采配がかなり効いている。シンバル3カウントを挟んでの「Cry Baby」も圧巻。藤原のフロアタムと松浦のドラムによるリズムセッションからの「ホワイトノイズ」では、小笹のタッピング奏法も見事にキマッた。この頃には冷たい夜風が吹いていたが、血沸き肉躍るサウンドに、会場の熱は高まる一方だ。

 15曲目「宿命」を終えると、藤原が、10年前に横浜ワールドポーターズでライブをしたと振り返りながら、「その時から無駄なライブなんて、もちろんなくて。どんなに小さなライブも、今日のような最高のファイナルも、絶対に忘れたくないんだよね」と噛み締めた。忘れたくないと思う理由については「ライブって、僕たちとみんなを繋ぐかけがえのないものだから」と語られる。そんなMCのあとに演奏された「TATTOO」では、スクリーンに道路を走る車のアニメーションが映された。道路沿いにはヒゲダンが過去にライブを行った会場や、楽曲モチーフの看板が立っている。「TATTOO」をはじめとしたヒゲダンの楽曲には彼らのバンド人生が詰まっており、ライブとは、バンドとリスナーの人生の交差点であることを伝えるような演出だ。

 Official髭男dismは元々「自分たちがいいと思う音楽を届けたい」というところから始まったバンドで、今もその気持ちは変わらないが、やがて「この曲を届けたらみんなはどんな気持ちになるだろう?」「ライブで共有したらどうなるかな?」と楽しみが増えていったのだという。本編ラストのMCでは、藤原が観客に「何より僕たちは、音楽を受け取って愛してくれた人たちに恵まれました。つまり、みなさんのことです」と伝え、以下のように言葉を紡いだ。

 「みんながスタジアムに立てるバンドに、Official髭男dismを育ててくれました。君たちがこれからの僕たちの音楽の目的地です。(中略)みんなが生きていて暮らしていることが、このバンドにとって大切な光で、力になっています。あなたの人生がヒゲダンを強くさせていることを忘れないでほしいし、忘れても何度も思い出せるよう、音楽やライブを作っていきたいと思います。それが日産スタジアムを経て、Official髭男dismが一生追い続けたい夢です」

 自らを取り巻く日常を、多くの選択肢の中の一つとして自覚すること。その上で、かつては偶然の要素とともに選ばれたその選択肢を、改めて自らの意思によって選び直すこと。それこそが人の一生であり、藤原がバンド人生について語ったMCのあとに鳴らされた「Chessboard」は、ヒゲダン流人生賛歌として格別の輝きを放っていた。バンドとオーディエンス、この場にいる人々全ての人生を肯定する壮大なバンドサウンド。観客が腕にはめたPIXMOBが“美しい緑色”に光るなか、藤原のハイトーンは空高く昇り、バンドの鳴らすアウトロ(ライブでしか聴けないアディショナルアレンジである)は華やかに響いた。

 本編ラストの「50%」や、アンコール1曲目の「I LOVE…」も格別だった。まず「50%」では、藤原が〈自分のやりたい事だけ永く続けたい!〉という歌詞に続けて、「そう、自分のやりたいことだけ、俺たちのやりたいことだけ! つまりは、最高の音楽とライブを作り続けて、あなたたちと一緒に死ぬまで歳とっていきたい!」とシャウト。呼応した観客によるシンガロングの輪が広がるなか、テープキャノンが放たれ、祝祭感溢れるエンディングとなった。

 これまでのライブの記録映像を挟んで披露された「I LOVE…」は、原曲とは全く違うアレンジ。1番の大半は小笹の鳴らすコードをバックに、藤原がリバーブを効かせた声でゆっくり歌うという静かなアレンジで、直前の映像にみんながマスクをしているコロナ禍のシーンが多かったこと、照明の演出が控えめだったことも相まって、孤独な海の底を感じさせた。やがて切実さを感じさせるボーカルによる〈I Love〉のリフレインをきっかけに、他の楽器の音が入ってくる。続いて藤原が〈その続きを贈らせて〉というフレーズを歌い終えると、ミラーボールの光によって会場全体が彩られた。観客がはっと息を呑む。7万人いるとは思えない静寂。突如銀河が立ち現れたかのような幻想的な光景は、Official髭男dismから観客へのプレゼントに他ならない。リスナーの存在が、Official髭男dismの人生をどれだけ豊かにさせたか。それを伝えるための「I LOVE…」だったのだろう。2番に入ると今度は観客が〈I Love〉と歌うという、自然発生のやりとりも美しかった。

 〈光溢れた夢の続きは君と共に〉と歌う「Stand By You」が最後に演奏されたことからも分かるように、Official髭男dismからリスナーへのメッセージは一貫していた。Official髭男dismの音楽の旅はこれからも続く。旅の伴侶はあなたである。今回のツアーで得た喜びや充実感を胸に、バンドは未来へと進んでいくのだろう。

Text by 蜂須賀ちなみ
Photo by TAKAHIRO TAKINAMI

◎公演情報
【OFFICIAL HIGE DANDISM LIVE at STADIUM 2025】
2025年5月17日(土)大阪・ヤンマースタジアム長居
2025年5月18日(日)大阪・ヤンマースタジアム長居
2025年5月31日(土)神奈川・日産スタジアム
2025年6月1日(日)神奈川・日産スタジアム

<セットリスト>
1.Same Blue
2.Universe
3.ミックスナッツ
4.パラボラ
5.Laughter
6.115万キロのフィルム
7.Pretender
8.イエスタデイ
9.Subtitle
10.FIRE GROUND
11.ブラザーズ short ver.
12.ノーダウト SKA ver.
13.Cry Baby
14.ホワイトノイズ
15.宿命
16.TATTOO
17.Chessboard
18.50%
EN1. I LOVE…
EN2. 異端なスター
EN3. SOULSOUP
EN4. Stand By You


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