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今年3月から開催されてきた、あたらよにとって初となるアジアツアー【Atarayo First Asia Tour 2024】。初日の台北に続き、広州、上海、杭州という4都市での公演を経てのツアーファイナルが、6月13日、東京・Veats Shibuyaで開催された。今ツアーのチケットは全ての会場でソールドアウトしたという。2021年にバンドにとって初のオリジナル楽曲である「10月無口な君を忘れる」が大きな話題になって以降、着実に自らの足で歩を進めながら日本を飛び出し世界を旅するまでに至った、あたらよ。そんなバンドの逞しさ、そして地力の強さを実感させられるパフォーマンスが、東京のファイナル公演では披露された。
渋谷センター街のビルの地下にあるライブハウス、Veats Shibuya。開演時間を過ぎて、フロア一杯に集まった観客たちの前に現れた、ひとみ(Vo. / Gt.)、まーしー(Gt.)、たけお(Ba.)の3人。まーしーの横には複数本のギターが既に準備されており、足元にも、まるで宇宙船のコックピットのような数多のエフェクターがセッティングされていて、まるで画家のパレットを覗き込むような感じで、あたらよのバンドサウンドが描く色彩と情感豊かな景色の奥にある秘密を垣間見るような気分になる。始まった1曲目は「祥月」。爆発力のある演奏に乗せてハンドマイクで歌うひとみの、軽やかだけど大胆――そんなしなやかな存在感に惹き込まれる。たけおはバンドのエンジンとして重く力強く疾走し、まーしーはギターを弾きまくり、コーラスを歌い、観客たちに手拍子を仰ぎと、初っ端から全身全霊で会場の熱量を上げていく。あたらよと言えば、その叙情的な世界観に魅力を感じる人も多いと思うが、ライブはこんなにも肉体的で、エモーショナルで、ダイナミックで、そして何より「この一瞬を絶対に後悔しないように生きよう」と腹を括っているような、清々しいほどのエネルギーに満ちているのだ。
悲哀を感じるタイトルとは裏腹に、冒頭の軽妙なリズムに乗せて会場全体からクラップが巻き起こった「悲しいラブソング」、ひとみとまーしーのツインボーカルも映えた「10月無口な君を忘れる」と、演奏が立て続けに披露されていく。ステージ背後のスクリーンにラフな筆致で綴られたバンドロゴだけが映し出されている、簡潔なステージセット。派手さはないが、それでも贅沢に感じるのは、ステージに立つバンドが剥き出しで、1ミリの卑屈さも入り込む余地がないくらいに全力だからだろう。
最初のMCでは、ひとみが「ただいま!」と笑いながら呼びかけると、観客たちが「おかえりー!」と返す。「久しぶりのJAPAN……」なんて言いながら、実は日本でも度々ライブをやっていると冗談交じりに話すひとみだが、「ただいま」と言いたくなるくらいに大きな経験を、初めてのアジアツアーでバンドは味わってきたのかもしれない。演奏は「晴るる」「恋するもののあはれ」「夏霞」へと続いていく。特に、ひとみの〈今更、思い出すなよ〉という歌唱から始まった「夏霞」の、ファンキーなバンドサウンドの音と音の狭間から感情が溢れ出すような演奏の鮮やかさ、そして、そこに続いて披露された「嘘つき」の静けさの中に激しさを宿すような、深くゆったりとした演奏は、バンドの表現力の豊かさ、そしてスケールの大きさを感じさせた。
中盤のMCで、ひとみが声を詰まらせながら思いを語る場面があった。「アジアツアーを回って、海外にもあたらよのことを待ってくれている人がいるんだと思った」と話し始めた彼女は、日本国外でのライブが多かった今年の前半、日本のファンが海外のファンを妬んだりひがんだりすることなく、「素直に自分が見た世界を共有し合っている」姿に感銘を受けたという。きっとSNS上などで垣間見えた、ファン同士の国境を越えたコミュニケーションに胸を打たれたのだろう。ひとみは続けて、「あたらよファンのみんなの眼差しは温かくて。『悲しみをたべて育つバンド』を好きになってくれているということは、みんな、『誰かにたべてもらいたい』と思うくらいの悲しみを乗り越えてきたんだと思う」と語った。「悲しみをたべて育つバンド」とは、あたらよがデビュー時から掲げているキャッチコピーである。いつしか、このコピーはバンド自身を象徴するだけでなく、バンドとファンの間にある関係性をも語る言葉になったのだろう。ひとみが「人生は残酷で。自分の気持ちとは関係なく、時間はどんどん前に進んでいっちゃう。それに心が追いつかなくなることってあるんだよね。最近、私はそうだったんだけど。そういうときに、皆さんとお互いに支え合える関係でありたいと思っています、私は」と言葉を続けると、その姿を観客たちの温かな拍手が包み込んだ。
まるで思いのたけを言葉にして伝えたひとみを支え、その背中を押すように、優しさとアグレッシブさが混ざり合うようなまーしーのギターが響き、「「知りたくなかった、失うのなら」」が始まる。そして、さらに畳み掛けるようにエフェクティブなギターが空間を満たし、「52」へ。ライブも後半に入り、演奏はさらなる気迫を持って響く。叫びが祈りに変わるグラデーションを捉えたような「outcry」、2曲目以降はギターを持っていたひとみが再びハンドマイクになった「極夜」へと魂を震わせながら駆け抜けるように披露。メンバーひとりずつのMCでは、フルスロットルでライブを謳歌している佇まいのまーしーが「めっちゃ嬉しくて……」とこの夜を共に過ごしている観客たちに喜びを伝えると、さらに「この5倍で行けますか!?」とさらに観客たちを煽ってみせる。そして、たけおも「皆さん、はじめまして」と語り出しながら、「楽しんでくれていますか?」と観客たちに語り掛けた(口数少なめのMCだったが、ひとみ曰く、たけおは「初期のワンマン頃よりも話すようになっている」そうだ)。そして、ひとみの「みんな、飛び跳ねる準備はできていますか?」という言葉に続き、「空蒼いまま」を披露。ライブ本編を締め括った。
観客たちの拍手や歓声に導かれて始まったアンコール。メンバーが再び登場する前に、それまで一貫してバンドロゴを映し出していたスクリーンに映像が流れ、今年9月11日にアルバム『朝露は木漏れ日に溶けて』がリリースされること、そして本作のリリースにあたり、全国ツアーが10月より開催されることが発表された。新たな嬉しい発表に、大いに湧く会場。再びステージ上にメンバーが登場すると、このライブの翌日である6月14日0時よりデジタル・リリースされた新曲「少年、風薫る」を披露。スクリーンにはイラストと歌詞も映し出される。まだ観客たちは誰も聴いたことのなかった新曲とはいえ、チリチリとした痛みがメロディの中に溶け込むことで、優しさに変わっていく――そんなこの楽曲の魅力を強く感じさせる、見事な没入感をおぼえるパフォーマンスだった。さらに、観客たちと声を重ねることで多幸感溢れる景色が広がった「光れ」、曲が始まった瞬間に上がった歓声が曲の持つ力の強さを実感させた「「僕は…」」の2曲が演奏され、ライブは締め括られた。音楽を分かち合うことの喜びに満ちた、見事な一体感を生み出した「光れ」、そして、新たなアンセムというべき「「僕は…」」の未来へ向かって駆け抜けていくような猛々しさと美しさはライブ終演後にも大きな余韻を残した。
バンド初のアジアツアーの終幕と、新たなアルバムとツアーの発表。そんな、あたらよにとっての季節の変わり目を飾るに相応しい、素晴らしいライブだった。
Text by 天野史彬
Photo by 郡元 菜摘
◎公演情報
【Atarayo First Asia Tour 2024】
2024年6月13日(木) 東京・Veats Shibuya
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