<ライブレポート>ビリー・アイリッシュ、強い衝撃と繊細な感情が行き来する3年ぶり来日公演2日目

2025年8月19日 / 12:45

 ビリー・アイリッシュの来日公演【HIT ME HARD AND SOFT: THE TOUR】が、2025年8月16日と17日に埼玉・さいたまスーパーアリーナで開催された。2022年8月26日に東京・有明アリーナで開催された初単独公演から実に3年。パワーアップして戻ってきた彼女の公演2日目をレポートする。

 この日のオープニングアクトを務めた藤井 風が残していった余韻に包まれる中、360度オーディエンスに囲まれたステージには、ケージのような立体構造が手際よく組み上げられ、これから始まるショーへの期待が高まる。それは後に、宙に浮かび、モザイク映像を映し、ビリーが中から登場するキューブに変わった。ひずむ〈MAN, AM I THE GREATEST〉の一節が振動となって会場に広がっていき、高鳴る前の静寂がステージを一瞬包み込んだ。そして、ビリーがキューブの中から姿を現すと、その静けさのバリアがパンとはじけ、歓声がわんわんと響き渡る。

 スタートナンバーは名作『千と千尋の神隠し』から由来する「CHIHIRO」。長い廊下の先にあるドアを抜けた場所にあたる“ここ”は、最新アルバム『HIT ME HARD AND SOFT』のジャケット写真の深海(もしくは川)だろうか。名前も思い出せない、大切な何かを失った感覚を、高まった感情でシンガロングするという一種の矛盾が不思議な感覚を生み出した。ヒステリックグラマーのトップス(背中にはBILLIE EILISHの名前が)にキャップを被ったスポーティーな格好をしたビリーのクリアブルーの瞳がスクリーンに大きく映ると、あまりの美しさに会場は「おお!」と感嘆。「LUNCH」では挑発的に流し目を送り、ステージを縦横無尽に駆け回る姿から若さとエネルギーがほとばしる。

 「NDA」から「Therefore I Am」への絶妙な繋ぎに身震いしたのも束の間、「また東京に来られてうれしい。一緒に楽しむ準備はいい?」と短く挨拶を済ませたビリーは、コーラス2名とともに早くも「WILDFLOWER」を披露。彼女自身の体験が刻まれたその歌を生で聴くと、胸が締めつけられ、息が詰まるほどだった。彼女を照らす無数のスマホライトが、その胸にある後悔や罪悪感を少しでも和らげてくれるようにと祈った。そして、集まった約4万人に、1分間だけ静かにするよう呼びかけ、その場でループを重ねてイントロを紡ぎ出す。まるでベッドルームの片隅から音が立ち上がる瞬間を目撃しているようだった。「when the party’s over」の誕生に感動しつつ、友人を失い孤独を感じる前曲との関連性を織り込む、その巧みさに思わず息をのんだ。

 しかし、またここでスパッとシーンが切り替わる。けだるい「THE DINER」から、ねちっこさのある「ilomilo」、そして地響きとバンドプレイの重低音が全身を駆け抜けた「bad guy」まで、いろいろな感情が行き来し、キャラクターも変わるさまは、まさにこのツアータイトルにもあるような強い衝撃と繊細な感情の両方を表していた。強いサウンドやキャラクターの奥に潜むのは、不安と繊細さ、そして傷ついた心。そのすべてが、唯一無二の歌声となって解き放たれる。

 特に筆者は「THE GREATEST」でそれを感じた。【グラミー賞】主要4部門を制覇した史上最年少であり、いくつものNo.1や初を獲得、若くして天才と称されてきた彼女も、誰かの前では不安を隠しきれないひとりの存在だ。この曲(そして「WILDFLOWER」)に関しては、当時交際していた11歳年上の元恋人と関係があると推測できるのだが、これほどの才能と美貌を備えた彼女でさえ、ステージを下りればまだ23歳で、喜びも不安も抱えるひとりの若者なのだと感じさせる。メロディとバンドの演奏は驚くほどシンプルで、ビリーの歌声がこの曲の感情をすべて担っていることを痛感。一曲に込められたビリーの叫びを聞き終わったあと、観客全員は彼女を慰めるための肩を貸す代わりに大きな声援を送った。

 背中に寒気が走る不気味なモノクロ写真や耳に残る不快な音、燃え盛る炎、〈i wanna end me〉と連呼する「bury a friend」は、まるで入ってはいけない儀式に迷い込んでしまったかのよう。小刻みのドラムが不気味さを増し、心の奥に秘めた欲望をあぶりだした「Oxytocin」に続いて、チャーリーXCXとの共演曲「Guess」は、“Brat色”にまみれたレイブパーティーに変わった。サイドステージから飛び出したビリーは髪を振り乱し、観客にジャンプを求める。ここまでハードにキメながら、また「BLUE」でトーンダウン。客席を通り抜け、手を伸ばすオーディエンスとできる限りタッチしながら、そして手持ちカメラでステージ下の内部を見せながらメインステージへ戻っていった。そうして自身の色へ戻した後、キーボードの前に座り「lovely」、「BLUE」のヴァースを差し込んで、「ocean eyes」へと繋ぎ、最後は大胆なアレンジが効いた「L’AMOUR DE MA VIE」の後半パート「Over Now Extended Edit」を展開。“人生で一番大切な人”からの脱却で、青の世界に一区切りをつけた。

 「ここにいる間は自分らしくいてもいいんだと思えるような空間にできたら」「みんなの味方でいるし、みんなのために戦うことだってできる。みんなが味方でいてくれることもわかっているし、必要ならみんなの声にもなるから」――これは数少ないこの日のMCでビリーが観客に伝えたことだ。デジタルネイティブだからこそ、常にファンと同じ目線でいることも彼女が絶大な支持を得ている理由のひとつだろう。そして始まったのは「What Was I Made For…?」。この曲でどれだけの人が自分自身や人生の意味を見つめ直すきっかけを得ただろうか。「Happier Than Ever」でギターをかき鳴らすビリーに歓声は鳴り止まず、大合唱とコンフェッティの嵐となったラストナンバー「BIRDS OF A FEATHER」で大団円を迎えた。自分の終焉を共に分かち合える永遠の愛を探る旅を続けるビリーに、ファンはどこまでも付いていくだろう。

Text by Mariko Ikitake
Photos by Henry Hwu(写真は8月16日に撮影されたもの)


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