7人組ユニット「7ORDER」の阿部顕嵐が、長編映画初主演を飾る『ツーアウトフルベース』が、3月25日から公開される。本作は、かつてはプロ入りが期待されるほどの高校球児だったイチとハチが、薬物に手を出し、堕落した生活を送っていたことでハプニングに巻き込まれ、人生サイアクの1日を疾走する羽目になる姿を描く。バンド活動を夢見てもがく元高校球児のイチを阿部、野球部時代の相棒で腐れ縁のハチを板垣瑞生が演じる。脚本は映画『ミッドナイトスワン』の内田英治、監督は映画『レディ・トゥ・レディ』で高い評価を受けた藤澤浩和が務める。今回は、阿部に役作りについてや、撮影の思い出などを聞いた。
-イチは、普段の阿部さんのイメージからは想像もつかないような役でした。阿部さんにとっては挑戦となる役柄だったのでは?
そうですね。これまで泥くさい役を演じたことはほとんどなかったので、だからこそ自分の幅を広げるチャンスだと思いました。これまでは決められたことを決められた通りに演じることが多かったのですが、今回の撮影では決められたことの中で自由に演じるという経験をさせていただき、僕にとっては新たな挑戦でした。
-決められた中で自由に演じるというのは、例えば?
台本に書かれたせりふを言うだけではこの作品は成り立たないと感じていたので、よりイチらしさを出すための芝居を自分なりに考えました。例えば、イチは常に何かほかのことをしながら話している、会話に集中しない人物だと思うので、台本には何も書かれていなくても、常に動いて、落ち着きのなさを出す芝居をしたり…。
-なるほど。ルックスもかなり作り込んでいましたね。ヨレヨレのTシャツにボサボサの金髪姿はインパクトがありました。
今回は、体重も落としたんです。やっぱり、ふっくらしていると堕落した感じが出ないと思ったので、5キロ痩せました。それに、撮影中は猫背でいることもずっと意識していたので、今、猫背が取れなくなってしまって困っています(笑)。
-もともと細いのに、そこから5キロの減量は大変だったのでは?
大変でした。基本的には食事制限で絞ったので、食事をひたすら減らしたのですが、やっぱり食べないのはよくないと改めて思いました。僕はあまり不安定にならないタイプですが、精神的にもかなりきつかったです。
-ハチ役の板垣さんとは今回、初共演だそうですが、バディを演じてみて板垣さんにどんな印象を持ちましたか。
瑞生は、物事を俯瞰的に見る人だという印象でした。基本的に、現場以外もずっと一緒にいたんです。家にも泊まりに来たし、ご飯も一緒に食べに行きました。僕はすぐに仲良くなるタイプではないので、深く付き合う人は少ない方なのですが、瑞生は特別でした。年齢差も感じさせないし、一緒にいてすごく楽で、すぐに仲良くなれたんです。多分、似ているところがあるんだと思います。
-板垣さんとの撮影で印象に残っていることは?
瑞生も僕も、台本をギリギリまで覚えられなかった日があったんです。本来、よくないことだと思うんですが、この作品においては、今振り返るとそれもよかったんだなと思います。せりふを間違えたり、かんでいるシーンも使われていますが、決められていないアンバランスさや、完璧じゃないところがこの映画の表現にふさわしかったのかなと思いました。
-確かに、せりふをかんでいるシーンもありました。
それから、「エンジンのレストア」というシーンで、瑞生が「エンジンレストア」とつなげて言ったシーンも使われていると思います。瑞生は自分が間違えていることに気付かずに話していたそうですが、(板垣が演じた)ハチは車のことをよく分かっていないというキャラクターなので、それが逆にリアルでいいと、監督がOKを出したシーンもありました。
-車といえば、本作では車もキーワードの一つですね。阿部さん自身は車の運転はしますか。
します。すごく好きなんです。今回は撮影でいろいろな車に乗せていただきました。今回、黒のベンツでカメラに向かって突っ込むシーンがあるのですが、そのシーンも僕が運転しています。ワンカットで撮影したのですが、あれは今までの人生で3本の指に入るぐらいドキドキしました。カメラを持っている(撮影の)伊藤(麻樹)さんに向かって突っ込んでいくのですが、砂利道だったこともあって、ひいてしまうのではないかと本当に怖かったです。
-撮影は1回でOKが出ましたか。
はい、1回で。隣に乗っていた瑞生も「本当に怖い」と言っていました。でも、思い切り突っ込んでいかないと、スピード感がある映像にはならないと思ったので、ハラハラドキドキではありましたが、スピードを出してよかったと思います。
-ところで、イチはバンド活動を夢見ているという設定ですが、阿部さんは音楽活動についてどんな思いがありますか。
ステージで歌って踊ることが音楽活動といえるのかは分かりませんが、今、バンド活動もスタートして僕もギターを始めたので、音楽をかじっている…ぐらいだと思いますが、音楽は奥が深いということを改めて感じています。まだまだ経験は浅いですが、音楽をかじって、演技もかじって、ダンスも歌もかじっている僕からすると、それらは全部つながっていると感じています。演技にも“音”は重要で、音楽で表すことができるし、ダンスも音楽だなと感じます。
-映像作品だから、舞台だから、グループでステージに立つから、というような垣根はあまり感じずに、全てがつながっている感覚なんですね。
そうですね、垣根は感じていません。ただ、舞台ならば観客の視線を移動させるために手を動かして表現したり、自分で「カット割り」をすることは意識しています。逆に、映像ではカット割りが決まっているから、その中で遊ぶことを考えます。そういった見せ方や体の使い方は、表現者として一番大事だと思うのでメディアによって変えますが、自分の気持ちはどのメディアでも変わりません。
-改めて、本作の公開を楽しみにしている人たちにメッセージを。
テンポがいいので、スカッとしたいときに何も考えずに見られる作品になっていると思います。刺激をもらえたり、元気になれたり、何か一つでもこの作品を見ることで感じていただけることがあれば僕は本望です。ぜひ、ご覧ください。
(取材・文・写真/嶋田真己)