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【インタビュー】『スプリット』ジェームズ・マカヴォイ「監督からは『非常にクレイジーな体験になる』と言われました」

 『シックス・センス』(99)以来、数々のスリラーで観客の度肝を抜いてきたM.ナイト・シャマラン監督の新作『スプリット』が、5月12日から全国公開される。23もの人格を持つ男に監禁された3人の少女が体験する恐怖を描いたこの作品は、息詰まる展開と見る者の予想をくつがえす結末が話題を呼び、全米3週連続ナンバーワンヒットとなった注目作。多重人格の男を演じたジェームズ・マカヴォイが公開に先駆けて来日し、映画の舞台裏について語った。

23もの人格を持つ男を演じたジェームズ・マカヴォイ

-多重人格の人間を演じ分けた演技が素晴らしかったです。『フィルス』(13)でも二面性のある役を演じていましたが、本作ではどのように役づくりをしましたか。

 『フィルス』で演じたブルースという役は、双極性障害のような状態で、麻薬中毒や妄想癖があり、喪失感が原因で二面性のある症状が現れていました。しかし、この映画で演じたケビンは、解離性同一性障害を患っているので、『フィルス』とは違います。私たちはさまざまな状況と向き合う時、自分の性格の一部がそれに反応しますが、ケビンの場合はその一部分が顕在化し、一つの人格となっています。そのため「このキャラクターにはこういう過去があって…」とプロフィールを作るようなやり方はしませんでした。まず、中心となる人格を掘り下げて、それをキーに、どのような性質が多重人格化していったのかということを考えました。

-ケビンが抱えている解離性同一性障害という症状について、どんなリサーチをされましたか。

 医学的な専門家に会って話を聞きました。この病気に関しては現在、医学的な情報が数多く出回っていますが、妄想癖の一種ではないかという意見もあり、本当に病気なのかどうか議論の的になっています。しかし、私は本当に存在すると思っており、患者の日常に関心がありました。牛乳や卵を買いに行くときはどうしているのだろうか、といったようなことです。ただ、出演が決まったのが撮影開始の5週間前で、時間もあまりなかったことから、残念ながら実際の患者さんに会うことはできませんでした。

-本物の患者さんに会えなかったことは、演技の上でマイナスになりませんでしたか。

 そこで役立ったのが、YouTubeです。実際に解離性同一性障害を患っている方たちが、ビデオブログや日記の形で、たくさん映像をアップしていました。それらを見ることで、彼らがそれぞれどんな思いで日々を過ごしているのか、詳しく知ることができました。その映像には、電気料金を払っている様子を収めたものから、自分の中の別の人格がLEGOにお金を使い果たし、一文無しになってしまったというものまであったんです。だから、医学的な情報よりもずっと役に立ちました。

-話は前後しますが、この作品に出演することになった経緯を教えてください。

 サンディエゴでコミコン(コミックやSF/ファンタジー映画関連のイベント)が開催された時、ものすごく大きなパーティーがありました。『X-MEN』のメンバーや「ゲーム・オブ・スローンズ」の関係者なども出席し、大勢がお酒を飲んで踊って、非常にクレイジーな状況でした。そこへシャマラン監督がやってきたので、あいさつをして、「あなたの映画が大好きです」などと10分ぐらい話しました。その間、私もお酒を飲んで騒いでいたことを覚えています。そうしたら後日、監督からこの映画の脚本を頂いたんです。パーティーでのクレイジーな姿を目にして、「この役ができるだろう」と思ったのかもしれませんね(笑)。

-脚本を読んだ感想はいかがでしたか。

 監督からは「読む前に話がしたい」と言われました。「非常にクレイジーな体験になる。もしかしたら、怖いと感じるかも」という話でしたが、いい脚本で怖いと感じるのは、役者としては良いことではないかと思いました。脚本を読んだら、監督の野心とマッチしている上に、俳優にとっても観客にとっても、大胆で挑戦的な作品だと感じました。とても変わった脚本でしたが、芸術的で娯楽性もあったので非常に興奮し、すぐにサインしたくなったほどです。

-出演作を選ぶ基準はなんでしょう。

 特に基準というものはありません。とにかく、挑戦できるものや新しいことが学べるもの、今までと違ったことが表現できるもの、まだやったことがないものに出演したいと思っています。

-この映画は、多重人格者に監禁された少女たちの恐怖を描いたスリラーですが、見方を変えると、多重人格者の苦悩を描いた作品ともいえます。『X-MEN』シリーズをはじめ、『ペネロピ』(06)、『ヴィクター・フランケンシュタイン』(15)など、あなたの出演作には他人に受け入れられず苦悩する人物に寄り添うものが多いように感じますが。

 ここ数年、確かに精神的に葛藤する役柄を多く演じてきました。時にはそれがドラッグやアルコール依存に苦しんでいる人物の場合もありました。『ペネロピ』は、どちらかというともう少し純粋で、より優しいジャンルの作品ですが、内面の葛藤という意味では同じですね。個人的にも、自分が置かれている環境や外見的な部分ではなく、内面的な葛藤や悩みを抱えた人に関心があり、引かれるのだと思います。

(取材・文/井上健一)

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