ポップなファンタジーコメディーに見せかけて…『バービー』/三つの出来事と時代が交錯する骨太の異色作『アウシュヴィッツの生還者』【週末映画コラム】

2023年8月11日 / 07:00

『アウシュヴィッツの生還者』(8月11日公開)

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 1949年、ナチスドイツの強制収容所アウシュビッツから生還したポーランド人のハリー・ハフト(ベン・フォスター)は、アメリカでボクサーとして活躍しながら、生き別れた恋人のレアを捜していた。

 ハリーは、自分の生存をレアに知らせるため、記者の取材を受け、自分が生き残ることができたのはナチス主催の賭けボクシングで同胞のユダヤ人たちに勝ち続けたからだと告白し、世間の注目を集める。

 だが、レアは見つからず、後の名世界チャンピオン、ロッキー・マルシアーノとの闘いの中で彼女の死を確信したハリーは引退する。

 それから14年の歳月が流れ、別の女性ミリアム(ビッキー・クリープス)と結婚し、新たな人生を送るハリーのもとに、レアが生きているという報せが届く。

 バリー・レビンソン監督が、アウシュビッツからの生還者の半生を、その息子がつづった実話を基に映画化。主人公が体験した収容所、ボクシング、恋愛という、三つの出来事と時代が交錯する骨太の異色作とした。若き日、収容所時代の痩せこけた姿から中年太りの姿までを体現したフォスターの力演が光る。

 アウシュビッツをはじめ、ナチスの罪をテーマにした映画が、いまだに、次から次へと手を替え品を替えて作られるのは、欧米の映画人にはユダヤ系の人が多いからだろう。この映画のレビンソン監督、音楽のハンス・ジマーもユダヤ系だ。彼らは映画が持つ告発力を信じているに違いない。

 そのレビンソン監督は、80年代には『ダイナー』(82)『ナチュラル』(84)『ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎』(85)『グッドモーニング, ベトナム』(87)『レインマン』(88)『わが心のボルチモア』(90)と快作を連発したが、『バグジー』(91)『トイズ』(92)あたりから迷走し始め、2000年代には低迷期に入った。その意味では、この映画は久しぶりの力作ということになる。

(田中雄二)

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