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またまた何でもありのマルチバースが展開する『ザ・フラッシュ』/リーアム・ニーソン出演100本記念作『探偵マーロウ』【映画コラム】

『ザ・フラッシュ』(6月16日公開)

(C)2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved (C) & TM DC

 地上最速のヒーロー、フラッシュことバリー・アレン(エズラ・ミラー)は、そのスピードで時間をも超越し、幼い頃に亡くした母と、妻殺しの罪を着せられた父を救おうと、過去にさかのぼって歴史を改変する。

 そして、別の自分と父母が幸せに暮らす世界にたどり着くが、そこには、スーパーマンやワンダーウーマン(ガル・ガドット)らは存在せず、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のマーティ役はマイケル・J・フォックスではなくエリック・ストルツになり、バットマン=ブルース・ウェイン(ベン・アフレック)は全くの別人(マイケル・キートン)になっていた。

 さらに、かつてスーパーマンが倒したはずのゾッド将軍(マイケル・シャノン)が大軍を率いて襲来し、地球植民地化を始めたことから、フラッシュは別人のバットマンやスーパーガール(サッシャ・ガジェ)と共に、世界を元に戻し、人々を救おうとするが…。

 DCコミックスのヒーローが集結した『ジャスティス・リーグ』(17)でスクリーンに初登場したフラッシュを主人公にしたアクションエンターテインメント。監督は『IT イット/“それ”が見えたら、終わり。』(17)のアンディ・ムスキエティ。

 ティム・バートン監督の『バットマン』(89)と『バットマン リターンズ』(92)でバットマンを演じたキートンが約30年ぶりに同役に復帰して出演を果たした。これがこの映画の見どころの一つ。 

 で、またまた何でもありのマルチバースだから、あっと驚くキャラクターや懐かしいキャラクターが多数登場するのだが、DCコミックスというか、DC映画によっぽど精通していないと分からないところもある。

 それにしても、自分の母親を救うためにこれだけの大騒動を起こしてしまうバリー=フラッシュは、ある意味、“自作自演”的なところがあるのだが、そこに切なさやらおかしさを感じさせるところがこの映画の真骨頂。

 日本では、同じくマルチバースが物語の核になるアニメーション映画『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』と同日公開となる。見比べてみるのも一興だ。

『探偵マーロウ』(6月16日公開)

(C)2022 Parallel Films (Marlowe) Ltd. / Hills Productions A.I.E. / Davis Films

 1939年、ロサンゼルス。私立探偵のフィリップ・マーロウ(リーアム・ニーソン)のもとに、裕福そうなブロンド美女クレア(ダイアン・クルーガー)が現れ、姿を消した元愛人を捜してほしいと話す。依頼を引き受けたマーロウは捜索を進めるうちに、急成長するハリウッドの裏の世界を知る。

 レイモンド・チャンドラーが生んだハードボイルドヒーローを主人公にした一編。ジョン・バンビルがベンジャミン・ブラック名義で執筆し、チャンドラーの『ロング・グッドバイ』の続編として本家から公認された『黒い瞳のブロンド』を原作に、ニール・ジョーダン監督が映画化。クレアの母親の映画女優役でジェシカ・ラングも出演している。「リーアム・ニーソン出演100本記念作品」だそうだ。

 マーロウを演じた俳優は多く、中でも、ハンフリー・ボガートとロバート・ミッチャムが当たり役としたが、チャンドラーがマーロウのイメージに合っているとしたのはケーリー・グラントだったという。

 その点、憂いと困惑の表情を得意とするニーソンもマーロウのイメージとは少し違う気もするが、今回は、マーロウをニーソンと同じアイルランド出身にするなど、“ニーソン仕様”に設定を変更。

 それに応えてニーソンも渋く演じて、新たなマーロウ像を生み出した。『MEMORY メモリー』(22)では、アルツハイマー病で記憶を失っていく殺し屋を演じるなど、さすがにアクション物がきつくなってきた彼にとっては、今後はこういう役を演じる方がいいのではないかと感じた。

 30年代の雰囲気を出すために、建物、車や装飾、ファッション、小道具、照明などは凝ったものを使っているので、そこも見どころ。ただ、イメージとしては、70年代に作られた『さらば愛しき女よ』(75)や(マーロウ物ではないが)『チャイナタウン』(74)に近いものがあると感じた。

 マーロウの相棒になる黒人のセドリック(アドウェール・アキノエ=アグバエ)が面白いキャラクターとして印象に残る。パトリス・ルコント監督の『メグレと若い女の死』(22)もそうだが、今どきこうした映画が出てくるのはうれしい限りだ。

(田中雄二)