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『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(3月3日公開)
経営するコインランドリーが税金に追われ、四苦八苦のエブリン(ミシェル・ヨー)。おまけに、ボケているのに頑固な父親(ジェームズ・ホン)、反抗期が終わらない娘(ステファニー・スー)、優しいだけで頼りにならない夫(キー・ホイ・クァン)に囲まれ、悩める日々を送っていた。
そんな彼女の前に、突然「別の宇宙(ユニバース)から来た」という、夫とうり二つのウェイモンドが現れる。混乱するエブリンに、ウェイモンドは「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と驚きの使命を告げる。
カンフーとマルチバース(並行宇宙)の要素を融合させ、生活に追われるごく普通の中年女性が、マルチバースを行き来し、カンフーマスターとなって世界を救うことになる姿を描いた異色のアクションアドベンチャー。
製作は、ジョー・ルッソとアンソニー・ルッソのルッソ兄弟。監督・脚本はダニエル・クワンとダニエル・シャイナートの通称・ダニエルズ。共演にジェイミー・リー・カーティス。
最初は、猛スピードで目まぐるしく展開する、突拍子もない話に面食らい、「一体何じゃこれは?」状態になるのだが、何でもありのマルチバースという設定に慣れてくると、思いの外楽しめた。
というか、一見、奇想天外に見えるこの世界の根底にあるのは、人生の選択、母と娘、家族の再生、幸せの追求といった普遍的なテーマだったのだ。
そして、そこに、移民やジェンダーの問題に加えて、『2001年宇宙の旅』(68)などの旧作のパロディーも入れ込んでいる。まさにタイトル通り、「あらゆるものが、あらゆる場所で、一斉に」起きるごった煮感がある。こうした多元宇宙が表現できるのは映画の特性であり、これは、ばかばかしくも、それを最大限に生かしたものの一つだといえるだろう。
一人で何役もこなしたヨーとクァンとスーは大変だったろうが、その半面、楽しくもあったのではないかと思った。特に、子役時代に『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(84)でショートラウンド、『グーニーズ』(85)でデータを演じたクァンの復活は特筆に値する。
先に発表されたゴールデングローブ賞では、ドラマ部門で『フェイブルマンズ』が作品、監督賞を受賞し、コメディー部門で『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のミシェル・ヨーが主演女優賞、キー・ホイ・クァンが助演男優賞を受賞した。3月13日(日本時間)に発表されるアカデミー賞の行方はいかに。
(田中雄二)